14.
真っ白な胸に描いた未来図は
僕が居て、あの恋がある
too near
heart.14
Tomorrow of you who prays
before the sun sets
「名前ちゃん」
『、オサムちゃん…』
白石に頼まれたからっちゅう訳でもなく追い掛けた背中、それは思いの外、近くて簡単な場所やった。
「そんなとこからテニス部でも見学するんか?」
『……意地悪、』
「ハハハッ、そんなつもり無かったんやけどなぁ」
テニスコートを囲う柵、基フェンスにしがみ着いた名前は白石と同じ様な顔で眼を赤く染めてた。
それを見ると苦笑せずに居れへんくて、携帯鳴らす必要も無かったとポケットに仕舞い直そうとすると、
『オサムちゃんは、そのストラップ大事にしてくれてる?』
「そらそうや。名前ちゃんから貰った訳やしお揃いやからな、オサムちゃんの宝物やねんで?せやけど急にどないしたんや?」
俺の携帯に触れるなり自分の携帯を並べた。2つのクマは元々対であったみたいにピッタリとくっ付くいてユラユラ揺れる。こんな時でも、これが俺と名前との距離やったならええのになぁって思う辺り、不謹慎っちゅうかほんまにガキな思考らしい。
『あのね、前に陽平ちゃんとお揃いでストラップ買ったことあったの』
「うん」
『だけどね、一緒に携帯に付けてた筈なのに次に会った時には無くなってた』
「……………」
『無くしちゃったのかなって思ってたのに、本当は違う女の子にあげたらしくて…お揃いは嫌になった』
「名前、」
『でも本当の本当はやっぱりお揃いに憧れてて、だけど陽平ちゃんとお揃いにするのは怖くて、だからオサムちゃんとお揃いにしたの…』
ごめんね。
2つのクマをぎゅっと握り締めた名前が言いたかったのはきっと“俺を彼氏の代わりにした”っちゅうこと。単純に俺を特別扱いした訳やなくて、ほんの代用。
それでも不思議とショックやなかったのは、それを何処かで理解してたか、それ以上にお揃いという事実が嬉しいからかは分からへん。
ただ、代用品としてでも俺を選んでくれるならそれでも良いと思うくらい、俺は名前に堕ちてた。
『だから、ね、』
「……うーん?」
『蔵が悪くないってことも分かってる、アタシの為に、陽平ちゃんに言ってくれたんだって分かってたんだよ…』
「せやなぁ…」
『なのに、酷い事言っちゃったよね…』
ガキ臭い思考しとる俺やけど一応、それなりに歳喰うてきとるから素直に泣くことの大変さとか、笑って生きる楽さとか、少しくらい分かっとるつもりや。
それにな、名前には俺と同じでヘラヘラするくらい笑ってて欲しいから。白石、今だけはお前を立ててやる。
「名前ちゃん、ちょう携帯貸してくれへんか?」
『、』
「えーと……あ、あったあった」
『、何?』
「これ、聞いてみー?」
女子高生に比べれば幾分手際悪く携帯のボタンを押して、開けた機能は通話中の録音再生。
俺の携帯も名前と同じで、サイドボタンがあるから通話中に良う押してしまうんや。
『え、何?』
「ええから聞き?」
(俺と名前はそんな関係ちゃう)
『、蔵の声……?』
やっぱり白石もサイドボタンを押して録音機能を働かせてしもたらしい。
(謙遜なんやしてへん、ほんまの事や。名前がアンタの事を好きなんもほんまやしな)
(名前は、渡さへん)
(お前みたいな男が相手されてええ様な女ちゃうねん!)
(余計なお世話や!ええから手引いて貰うからな!)
『…くら……』
次々に聞こえてくる白石の声に、名前も名前で踏ん切りが着いた顔に変わった。
赤い眼を擦って、パンパンと顔を叩けば俺に向けられたのはいつもの笑顔。
『オサムちゃん、蔵に謝ってくる』
「早い方がええからな?」
『うん有難う』
「あ、ちょう待って」
『え――、』
手を引いて重ねたのはさっき触れたばっかりの口唇。
変わらず柔らかいその感触に脳みそは溶けてしまいそうな気がしたけど、もう、離したくないっちゅう想いだけは存分に込めてやった。
『オサムちゃん…こんな時に、』
「名前ちゃん」
『、』
「愛してるで?」
『―――…うん』
「ほな行ってらっしゃい」
白石に貸しひとつや思たけど、名前を任してくれたことと今回のキスを数えたら、俺のんが貸しになるんかなぁって……
離れてひとつだけ取り残されてしもたクマを揺らしたら何でやか俺まで泣きたくなった。泣けへんくせに。
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急ですが本日(1120)いっぱいでアンケート〆切ります!
あと1話か2話ほどで完結予定です。
(20091120)
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