too near | ナノ


 


 10.



一房の想いが君に届きますように
祈りながら息を吸った


too near
heart.10
The smile that you show must
continue for a long time.


家に帰ったって浮かぶのは名前が眼を綴じた顔で、

ベッドに転がったって頭から離れへんのは名前の横顔で、

休んでた脳が朝焼けで覚醒しても名前でいっぱいな胸内はどうしようもなく恋心を募らせてた。


「27にして恋煩いかぁ…ハハッ、俺もまだまだ若いっちゅう証拠か」


自分で言うて笑いが込み上げて、せやけど渇いた笑いじゃ虚しくなるだけやった。

もし俺が教師やなくて生徒なら今日は間違いなく学校なんか来てへん。こういう時、社会人ちゅうのは厭なもんや。特に教職やと“代わり”が無い。否、あるんはあるけど直ぐ様代理が出来る職種ちゃう。面倒臭いなぁ。


「お、朝練始まったんか」


今日は確かミーティングするって言うてた筈やけど、俺が居てへんし仕方なく練習始めたってとこか。

屋上に立てられた安全柵であるフェンスに腰を掛けて見下ろしたテニスコートは小さくて、人間も豆粒みたいに小っぽけやのに。それでもソコに名前が居らんのは一目瞭然で。白石も姿が無いとこを見ると、また2人でベタベタしとるんかーって、ムカムカしてきた。

学校には来たけど今日は絶対部活に顔出さへん。そんな子供染みた拗ねる心を表に出す様に、フェンスの上に立ち上がって煙草を喰わえると屋上のドアが開いた。


『こんな所に居たのオサムちゃん!!』

「、」

『ミーティングも放ったらかして何――、何やってんの!?』


ドアから形を現したのは俺が焦がれてた相手で、物凄い剣幕やったくせにフェンスの上で煙草を吹かすという異様な光景を前に瞠若して顔を歪ませた。
そら確かに尋常やなくて異様かもしれへんなぁ?


『オサムちゃん、危ないから降りて!とりあえず早くこっちに来て!』

「んー?」

『オサムちゃんが自殺なんて認めないから…!』

「え?」

『生きてたら良い事だってあるし、何をそんなに思い詰めてるのか分かんないけど…気付かなかったアタシも馬鹿だけど!アタシはオサムちゃんが死んじゃうなんてやだ!』

「……………」


どうやら名前は勘違いしとるらしい。俺が自殺志願者やと思い込んでるんや。うーん、そんなつもり更々ないねんけどなぁ。


「……名前ちゃん」

『、何?』

「白石、美味しかった?」

『え?』

「ちゅう、したやろ?」

『、見てた、の?』

「うんバッチリ見てしもたー」


ちゃうねん、否定を並べようと思たけど。


『あれは、別に…』

「オサムちゃんもしたいんやけど」

『へ、』

「オサムちゃんもちゅうしたいわ」

『な、何言ってるの?そんなの良いから降りて来てよ!』

「名前ちゃんがちゅうしてくれるなら降りてもええよ」


否定より、名前の勘違いに乗ってみようと賭けをした。
白石が特別やないなら俺にも、とか。そんな事したって意味なんか無いのに欲望と嫉妬は思ってたより大き過ぎたんや。


『オサムちゃ、ふ、ふざけないでよこんな時に…』

「ふざけてへん。したいったらしたいねん。白石ばっかり狡い、そんなん認めへん」

『わわわ分かったから!したいなら降りて来て!死んじゃったらチューなんか出来ないんだからね…降りたら何回でもしたげるから!!』

「…言うたな?」

『え、』


空に向けて灰を落とせば鉄の上から跳ねてコンクリートに足を付ける。
名前は訳が分からない、っちゅう顔で眉を顰めてたけどそんなん関係無い。


「ほな、約束通り」

『、オサムちゃ――』


絶対逃がさへん。
両手で後頭部を掴んで重ねた口唇からは甘くて酸っぱい苺の味がした。

あー…飴舐めてとか卑怯ちゃうんか?
苺とか、離したくない。
俺の理性が消えるまで後コンマ何秒やろうか。



(20090929)


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