06.
何で、そんなこと分からない
ただ溢れてくる涙は熱かった
06 君は酷く美しい
フラれた
その一言を放った名前は歯を食い縛って顔をくしゃりと歪めた。俺も俺で、ソレがどういう事なんか理解するのに頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうなくらい混乱した。
そうじゃろう?
オサムちゃんが名前をフる、そんな事ある訳ないって何処かで思ってたんじゃから。
『……………』
「名前、」
『…オサムちゃんの事、忘れたい、』
「え?」
『今日だけでいい、今だけで良いからお願い雅治…』
「――――――」
何を言ってあげるのが適切なのか、言葉を選ぶ暇もなく触れたのはアイツの柔らかい口唇。
ベッドの上で、
俺に跨ぐアイツが居って、
泣き顔なんか見せられたら…
俺の理性も音を立てて崩れていった。
「俺で、良いんじゃな?」
『うん…』
「分かった」
首を縦に振ったのを合図に体勢を逆にしてやると俺の首に名前の腕が伸びて来る。涙を拭うことなく組み敷いた身体は何とも厭らしく優艶で。俺の脳は狩りをする動物みたいにアイツを求めていた。
好き、
この顔もこの声も、この身体も。
全部全部、全部好きなんじゃ。
『んっ…まさはる…』
「俺だけ、見とったらええ」
『あ、まさ、はる…?』
「ん」
今までの我慢も、アイツへの想いも、全てぶつける様に必死で愛撫を続けてたのに。
『好き……』
聞こえてきた声のせいで、また思考が遮断される。
『好き、好きって言って…今だけで良いから、好きって……』
「……………」
それは俺にとって酷でしかなかった。
こんなにも想っとるのに届いてない、
こんなにも想っとるのに今だけ…
それは流石に苛められとる様に感じるぜよ。
『まさはる…?』
「……好きじゃ」
『あっ……』
「好きじゃ、好きじゃ名前」
『う、ん…すき……』
それでも名前が願うままに叶えてやって、本心だけど本音を隠すみたくに言葉にすれば視界が少しだけ滲んだ気がした。
身体はこんなに近いのに心は遠い。孤独感を背負いながら俺はアイツを抱いた。
吐き出した白濁は、虚しくて切なくて、痛かった。
(20091008)
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