05.
いつからか変わってた
2人の関係と気持ち
05 夕陽の横顔は涙を語る
長文じゃなければ短文でもない。
たった数文字の短過ぎるメールの文章で俺の心臓は大きな音を立ててドクン、と収縮した。1回の収縮運動をこんな鮮明に感じるなんや初めてで、縮んだ瞬間、苦しくも痛かった。
「オサムちゃん!」
『お、白石ーどないしたんや?』
「――何でそない何でもない顔してんねん…」
こっちはオサムちゃんからのメールのせいでテニスコートから必死に走って来たっちゅうのに本人は新聞を読みながらしれっとしてて。
あの時、携帯を見て固まった俺の隣で不思議がってた財前やって、メール画面を覗き込んだと同時に顔を歪ませて眉を寄せたっちゅうのに。オサムちゃんは、オサムちゃんにとっては何でもない事やって言いたいん?
『何でって、言われてもなぁ?』
「、オサムちゃんにとって名前『白石』」
「――――、」
所詮名前は二番煎じであってオサムちゃんには一生を誓い合った本命が居る、そう言いたいんかと解釈した俺は勢い任せに口を滑らせそうになった。
やっと俺を映して、細めた眼で制止されるまでココが職員室やとは気付かへんかった。周りにバレたなら危ないのはオサムちゃんだけやなくて名前もやのに、俺は……。
『白石、こっち来ぃ』
「……………」
野次馬根性で俺とオサムちゃんをチラチラチラチラ見てくる教師達の視線を潜って、急に平静を戻した俺は言われるままオサムちゃんの背中を追った。
『誰も居らんな、もうええで?』
放課後の教室に入って、がらんと静寂しきった部屋の中で机の上に座ったオサムちゃんは『文句なら何でも受け付ける』そんな風に緩く口角を上げた。
「……単刀直入に、何で別れたん?」
話しはそれからや。
オサムちゃんが何を思って名前から離れたんか。嫌いになったとは思えへんし、二番っちゅう存在が面倒臭いなら始めからそんな関係を作る筈がない。面倒も何もかも、ハナから分かっとったことやろ…?
もしこれで俺や仁王の為なんや言うてみ?頭の中を繋ぐ糸が切れるのは間違いないで。
『もう…な、潮時やったんや』
「、え?」
『名前も俺も、限界やった』
「―――――」
せやけどオサムちゃんは、自分を出しながらも名前の事しか想ってない様に見えて。立ち上がって撫でたのは名前の机やった。
教室にあるただの机やのに、名前本人に触れる様に優しい愛撫は夕陽と重なって眩しい。
『なぁ白石?』
「、」
『白石は何で怒っとんや?』
「それは…」
『白石は名前が好きなんやろ?せやったら白石にとっても吉報ちゃうんか?』
そう、やねん。
オサムちゃんと名前が別れたら俺にやってチャンスが巡ってくるかもしれへん。せやけどメールを貰った時に浮かんだのはオサムちゃんが名前を棄てて事に対する苛立ちやった。
名前を手に入れたいっちゅう気持ちは本気やったけど、反面名前がオサムちゃんに本気やったのも知ってたから。
ほんまは、このまま自分の想いを伏せてオサムちゃんと笑てる顔が見れたら、それだけで良かったんかもしれへん。
『白石、名前にとっての幸せは普通に恋して普通に結婚する事やねんで』
多分オサムちゃんは精一杯の笑顔を作ったんやと思う。
『俺相手やと、アイツは普通の幸せすら叶えられへんねん』
せやけど、夕陽を見上げた横顔は泣いてる様な気がした。
名前とオサムちゃんに何があったんか、結局それすら分からへんまま俺も瞼がじんと熱くなった。
“せやから白石、今度はお前に任すわ”
そんな風に笑うオサムちゃんは初めてや。
(20090928)
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