02.
もしこれが運命やと言うなら
俺は運命を憎んでたんかもしれん
st.2 あの日、恋をした
“髪、凄いね”
初めて交わした会話はそれ。
1年の時に同じクラスになって、隣に座っとった女が名前。
“お前さんも善い色しとんじゃなか?”
“銀髪には適わないよ、超綺麗に入ってる羨ましい”
“俺と色似とるなぁ?”
“え?あ、ホントホント似てる!”
“……、白石?”
“え、知り合い?”
“ん、知り合い。久しぶりやなぁ仁王?”
更に名前の向こうに居ったのが白石で、全国大会ぶりに会ったアイツは相変わらず完璧な顔して笑っとった。
そんな懐かしい顔は一変して名前と似た髪色について話す白石は何処か無邪気さが残る様な歳相応な笑顔に変わって、変な蟠りが俺の中で荒れ狂う気がした。
きっと
同じ日、同じ時間、同じ場所で
同じ女に惚れたんじゃのう。
嫌がらせにしては十分過ぎるのに、神様の悪戯はこれだけでは終わらんかった。
“担任の渡邊オサムや、皆宜しくしてなぁ!”
中学から馴染みある顔に白石は懐かしんでて、その隣では瞠若した様な固まった名前。でもそれは瞠若したんじゃなくて周りを全てシャットアウトしてしまうほど“オサムちゃん”に見惚れてたんじゃ。
同じ日、同じ場所で
彼女も恋をした
それからの名前は口を開けば“オサムちゃん”足を動かす先は“オサムちゃん”
面白いくらい単純で面白いくらい一生懸命やった。
“…どうしたんじゃその頭”
“へへ、似合うー?”
“まぁそれなりにな”
“ちょっと色落として捲いて大人っぽくなりたかったの”
全ては“オサムちゃん”の為で全ては自分の恋愛の為。
羨ましいって言っとったくせにあっさりそっちを取るんじゃ。虚しいとか虚無感を感じる間も無い。
今日まで3年弱、俺も白石も第三者として名前を見てきたけどそれも無駄やったんかの…そう思わずには居れんじゃろう。
『おいでおいで』
『はーい!』
あんな嬉しそう顔、俺の前じゃ見せてくれた事が無い。
幾ら“オサムちゃん”に一生の人が居ったって名前はそれでも幸せなんじゃ。
『ただいまー』
「用事、終わったんか?」
『うん、職員室に運ぶ荷物手伝わされた』
「雑用か」
『みたいー』
そんな事言ってみたって全身に“オサムちゃん”の匂いが染み付いとるぜよ?香水とまでは言わんキツい匂いじゃなくてコロン程度のあの薫りが…
「名前は羨ましいのう」
『え?何が?』
「全部じゃ全部」
『何々、蔵も元気無さそうだったけど雅治も変だよ?』
「五月病ってやつじゃ」
『まだ2月ですけどー!』
「細かい事は気にしなさんな」
零れそうになる溜息をグッと堪えて口角を上げると頬には暖かいモノが触れた。
「、」
『お土産だよ』
「…ココア?」
『蔵とお揃い。飲んでくれるんでしょ?』
「有難く頂くぜよ」
『それなら良ーし!』
満足そうに笑う名前を見たら白石の言っとった言葉が頭にちらついて。
今が勝負時と言うんなら是非俺も参戦しようと甘い甘いココアに誓った。
(2009)
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