10.
10分後の未来がこんなにも遠いなんて
空への階段を欲した
10 天狗が嘲笑う
まさか白石が?
そんな事白石に限ってある筈が無い。ガセもええとこじゃ。
冷静に思うのに、身体はソレをブン太に突っ返して屋上から続く階段を降りていく。教室に行けば笑殺した白石と名前が居る、絶対そうじゃのに。
「―――――、」
開きっ放しの教室のドアを潜ると騒めいたクラスメイトは皆が皆、その紙切れを手に好き勝手話して、黒板には“絶頂白石”とか、笑えん落書き。
そこに白石は居らんし、席に着いて俯いたまま紙を眺める名前が居った。
白石、お前は今何処で何しとんじゃ…?
「名前、」
『………………』
「何が、あったんか話してくれんか?」
『………………』
喧騒に紛れたとしても、確実に俺の声は届いとる筈やった。じゃが、アイツは顔も上げんし声を出す事もない。ただ紙を持った手に力が加えられてクシャクシャとシワを作っていく。
もしかして、昨日俺と別れた後にそういう何かがあったんか。思い当たるからこそ声を出せんのか。最悪の展開が浮かぶ。
俺のせいで白石が追い詰められた?俺のせいで白石は本当にパクられた?
『名前!ちょっとええか』
「、」
想像に想像を重ねて震えてしまいそうな口元を手で覆った瞬間、ドアから聞こえて来たのはオサムちゃんのでかい声。
『お前等も変な噂信じたらあかん!白石は何もしてへん、そういう男ちゃうのはお前等が1番よう分かっとるやろ!』
『、オサムちゃん…!!』
『名前ちゃん、ちょう話しあんねんからおいで』
オサムちゃんの声に反応して顔を上げた名前は、手に持ってた紙切れを離して一目散に走ってった。
『アタシのせいだ、どうしようオサムちゃん…!!』
『分かったから、向こうで話そな?』
「――――――」
名前の手からヒラヒラと舞った紙は、しつこいくらいに空中で揺れて俺の足元に落ちる。
シワが入って、手汗で一部湿ったそれを見て分かった事が2つあったんじゃ。
“何があったんか話してくれんか?”
その言葉は名前にとって焼夷弾と変わらんもので、白石を信じとるアイツにすれば耳に届かんのも無理は無い。白石を信じてた筈じゃのに“最悪”を考えた俺には何も聞く資格が無かった。
“そういう男ちゃうのはお前等が1番よう分かっとるやろ!”
そうじゃ、白石はそんな馬鹿な真似する男じゃない。俺より、人一倍クソ真面目で頭のキレる男じゃったのぅ…。
それともうひとつ。
“オサムちゃん……!!”
結局俺は、本当にあの日限りあの時限りの存在じゃった、そういう事。
『仁王、お前も来てくれへんか?』
「……………」
『、雅治!?』
2人で出て行くんかと思いきや呼ばれた自分の名前に瞠若したのに、
『…何処行っての?教室に居ないから、心配してたのに…いつから居たの…?』
眉を下げたオサムちゃんにつられてしまったじゃろ?
「…ちょっとな。今教室に戻ったんじゃ」
笑う事が苦痛だとか、初めて思った。
白石は今、何処でどんな顔をしとるんじゃ?
(20091027)
明日明後日にはアンケートを〆切ます。
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