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 07.



“元カノ”

その単語がアタシの脳内をぐるぐる回って頭から離れない。
ご飯を食べても、ベッドに入ってもずっと考えてた。今のアタシは光にとって元カノに当たるのかって。だけど光はアタシと付き合ってた事すら知らないし、元にもならないんじゃないの?自分で思ったことでさえ虚しくなる。
彼女は何でアタシにそんな事を言ってきたのか、答えはひとつしか浮かばなかった。

……彼女も光が好きだって。


『名前』

「、蔵?」

『どないしたんや?もう放課なったで、今日も行くんやろ?』

「あ、うん…」


あの子が光の事を好きだとしても、アタシが好きなのを止めてって言う権利もなけりゃ会うのを止めてとも言えない。誰かを好きになるのは誰しも平等で自由なことだから。況してや今の光はアタシを好きな訳じゃない、彼女にだって可能性はあるし好機なんだもん…アタシを邪険にしたくなる筈だよね…。


「ね、蔵?」

『うん?』

「…アタシって、光の何になるのかな」

『、』

「ただの、先輩…だよね…」


先輩、と思って貰えてるかも分かんない。ただ同じ学校に通ってるだけの先輩、その程度。光はまだ入院してて学校にも来てないからそれすら思われてないかもしれない。

毎日病院に来て、毎日意味の分からない話しをする迷惑な女。それだけ、なのかな…


『名前は、財前が好きやんな?』

「え、」

『今の財前は名前ん事、彼女やとは思てへんけど…せやけど大事なんは名前が財前ん事が好きかどうかなんちゃうかな』

「……………」

『上手く言えへんけど、もしこのまま記憶が戻らへんくても財前はテニスするやろうし、名前ん事も好きになると思うねん。名前が財前を想てたら前と同じ、繋がる想いなんちゃうかなって…2人はそういう運命やって、俺はそう思いたい』

「蔵……」

『名前がそないな湿気た顔しとったら財前はあれよりもっとぶすくれてまうで?』

「…ちょ、頬っぺた伸びるって!」


せっかく蔵の言葉に感動したのに。ぶにぶにと痛みがない程度に頬っぺたを引っ張って、ニコニコ恣意に笑うからこっちまで伝染しちゃって。


「もう!顔が崩れるってば!」

『ほな崩れた顔で財前笑わしてき?』

「…うん。ありがと、行って来る!」


俺も明日はまた一緒に行くから、そう言って見送ってくれる蔵に謝意を込めて手を振れば病院へ走った。

蔵が言った通り、大事なのはアタシの気持ち。アタシが光を好きで、光の傍に居たいっていうその想いだもん。第三者なんて関係ないよね?

気を持ち直したアタシは通り道にあるカフェに寄って、箱に詰めて貰ったケーキを片手に光の元へ急いだ。


「ひっかるーっ!今日はお土産があるよー!」

『……………』


コンコン。2回ノックして病室へ入ると、振り返った光はアタシを睨むように見た後、窓の外に視線を投げた。


「ひかる…?」

『……………』


なに、どうしたの?
何で何も言ってくれないの?
どうしてこっち見てくれないの…?
聞きたいのに声が出せない空気は苦しくて、それを破ったのは光の溜息だった。


『ハァ……』

「、」

『アンタ、どないしたいん?』

「、え……?」

『今の俺が気に入らんから意地になっとんやろ?』

「な、に…どういう意味…」


やっとアタシを映してくれたかと思うと怨敵を見るみたいに眼を細めて深いシワを寄せた。


『アンタ、先輩とか言うてたけど彼女らしいやん』

「、何で、」

『せやから覚えてへん俺に腹立てて必死に思い出さそうとしてんねや』

「ちが、アタシはそんなつもりじゃ…」


蔵や謙也や皆には口止めした、光ママにも黙って貰うようにお願いしたのに何で光が知ってるの…?
もっと後で、光が落ち着いたらアタシから話すつもりだったのに何で…?


『所詮、その程度なんスわ』

「、」

『俺がアンタの事、本気で好きやったら写真見たり顔見た時に直ぐに思い出した筈や。せやけど思い出せへんのは――――』


その程度の気持ちやっちゅうことやろ

告げられた言葉が瞬時に理解出来なくて、混乱した頭を抱えたままでは返事さえ儘ならない。


『アンタは今の俺やって俺やのに受け入れたないねん』

『もう此処に来やんで下さい』

『…アイツはそんな事言わへんかったのに』


スローモーションで流れる光の声が、最後の声が届いた時には視界が滲んでて。
憎悪を投げれたらアタシはそこに居られなくて早足で病院を後にした。

ケーキの箱が鈍い音を立てて床に転がったのも見ないままに。



(20090918)


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