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 06.



あれから毎日、アタシは学校が終わったら直ぐに光の病院に行って光と色んな話しをした。
話しをしたって言っても一方的に思い出話しを語るだけで、光は『ふーん』とか『はぁ』とか返事はお決まりだったけど。

アタシと他に、高校3年の10月だと言えど揃って部活に参加してる皆は、毎日じゃないけど代わる代わる順番で一緒にお見舞いに来てくれた。皆で毎日に行くと逆に迷惑だろうからって、そうは言ってたけど、アタシと光が2人で居られる時間にも気を使ってくれてるんだと思う。例え1週間経った今、未だ記憶が戻らないままでも。


「ひっかるー!」


そして今日もアタシは光に会いに行く。光に会えるならそれで十分って思う気持ちもあるけど、やっぱり思い出して欲しいから。早く2人で馬鹿言い合って笑って日に帰りたいもん。その為なら努力は惜しまない。


『ほんま暇人スね』

「暇人て失礼ね、アタシは忙しい中わざわざ光の為に時間割いて来てるって言うのに!」

『誰も頼んでませんけど』

「うわー光冷たい、生意気ー…」

『普通ですわ』


漸く“知らないアタシ”にも慣れてきたみたいで、薄っぺらい皮肉を浮かべては拗ねるアタシを見て可笑しそうに笑うようになった。冗談でも『会いたくない』って取れる言葉は聞きたくないけど、光が笑うなら今だけは許せるかなって思えるし、少しずつでもアタシに心を開いてくれてるならそれだけでも嬉しい。

この現実のお陰で、少しずつ涙も枯れてきたんだ。


「ねぇねぇ光」

『何です?』

「今日はね、アタシの部屋にあった写真持って来たのー」

『…また写真スか』

「これはまだ光が見たことないやつだし、」

『別に見たない』

「、」

『今度にして下さい』

「……………」


だけど昨日、一昨日くらいから光は過去に触れなくなった。
初めは興味津々に見てた写真だったけど今は視線を外して怪訝を向ける。深く理由は突っ込めないけど、思い出したくとも思い出せない自分との葛藤だとかストレスがあるんだと思う。

アタシだけならともかく、光ママだって早く記憶が戻る様にって昔の事を話したり、アタシみたいに写真を見せたりしてるらしいし…それから、病院では身体の検査だとかカウンセリングも受けてるみたいで。毎日毎日そうだったら、ストレスが溜まって嫌になったって仕方ない、よね…。


「ごめん光…」

『……………』

「、あ」

『え?』

「あれ、光の携帯…?」


眼に入って来たのはベッドの横にある棚で、そこには見覚えある2つ折りの携帯。
光が入院してから携帯で連絡なんか取り合ってないから忘れてたけど、事故現場を見てないアタシが察し出来るくらい酷い有様だった。光の怪我がそんな大した事ないのが本当に不思議で、本当に良かったって思う。
黒の携帯は塗装が剥げてむき出しになった外壁、2つに折れる接続部分からはコードがはみ出ちゃってて使い物にならないんだろう。


『あー、もうアレあかんやろ』

「だよね…電源も入りそうにないし」

『入ったところで、っちゅう話しやけど』

「じゃあ新しいの買ったら教えてね?」

『えー』

「絶対教えてね」

『はいはい、教えへんくても調べそうで怖いしな』

「な、そこまでしないし!……あー…するかもしれないけど…」


どん引きスわー、口にしなくとも顔だけでソレを語る光に猛抗議したくて息を吸い込んだのに、


『あ、こんにちは…』

「―――――」


1週間ぶりに見る“あの子”の登場で、声にならず二酸化炭素だけが口から漏れた。


『また邪魔しちゃってごめんなさい、今日は財前君にお話があって…』

「そ、か…じゃあアタシは居ない方が良いよね、」

『ごめんなさい…』

「ううん気にしないで。じゃあ光、また明日」

『気ぃ付けて』

「うんありがと」


何でか、彼女の顔を見た途端に不安が込み上げて全身の毛を震わせた。背筋が凍る様な、嫌な予感を胸に病室を抜けようとしたけど、

(邪魔してごめんなさい元カノさん)

小さな小さな声が鼓膜に届いた。
元カノって、アタシの、ことなの…?



(20090917)


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