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 05.



どれだけ泣いたって光が戻って来る訳じゃない

無意味だって分かってても毎晩溢れてくる涙に、どこにそんなに溜まってたんだって呆れたくなる。
でも光の前では泣いちゃ駄目、泣かないって決めた。


「光っ、これはね、去年の学祭の時だよ」

『学祭…』

「光が謙也にカラシ入りのたこ焼き食べさせて謙也が叫んでた時でね、皆超笑ってた」


アルバムのページを捲って、謙也中心に皆が写った写真を眺めた。
去年の学園祭で、光のクラスがたこ焼きの屋台やってて、差し入れだって持って来てくれた1パックの中にひとつだけ大量のカラシが入ってた。そのひとつに向けて謙也を上手く誘導した光。
アタシ達は美味しいって食べてたのに謙也だけは声にならないような声で叫んで机叩いてたんだよね。本当に面白くってアタシはあの時笑ったこと、鮮明に覚えてる。
だけど光は?
光はどんな気持ちで自分が写ってる写真見てるの…?

昨日渡せなかったアルバムを手にしたって光の表情は何も変わらなかった。


『…殆ど写っとる』

「え?」

『俺が写っとる写真、殆どアンタが横に居るけど』

「…………」


部活中の写真、学祭の写真、皆でお弁当を食べてる写真。
何枚も何枚もある中でアタシはいつも光の隣に居た。何も言わなくたってアタシが光の傍に行ってたし、光だってアタシの横を選んでくれた。

ソレに気付いてくれた事に喜ぶべきなのか、それでも思い出せない事を嘆くべきなのか…
分からないけど、アタシは『アンタ』って呼ばれた事が1番ショックだった。


『そない仲良かったんです?俺と』

「え…あ、うん、アタシと光は仲良かったよ!じゃないとこうしてお見舞いなんか来ないし!超仲良し!」

『フーン、そうすか』


仲、良いよ。良いに決まってる。
だってアタシは光の彼女だもん。付き合ってもう1年経つんだよ。そうだよ、アタシが光に告白してオッケー貰って1年、経つんだ…

何でそんな簡単な一言が言えないのか、悔しい。言いたいのに言えないのが切なくて艱苦でしかない。


『俺、アンタが好きやったんかな』


なのに聞こえたきたのは雲霧みたいに儚い言葉。


「ひか、る?」

『前の俺がどんなんやったか分からへんけど、嫌いな女とは一緒に居らんやろうし』

「――――――」

『よう分からんけど、どう思います?』


前も今も、そんな言葉は要らない。光は光なんだって、そう思った。
アタシの事覚えてなくたって繋がってるものがある、願わずには居られなくて。


「光が…アタシの事好きだったら、嬉しい、な…」

『……………』

「ごめ、今日は帰る、ね」

『、写真』

「良いよ置いて行くから見といて?」

『はぁ……』


泣かないって決めたのに。


「ひかるのばか…」


だけど今日は哀しくて泣いたんじゃないから良いでしょ?
光が言ってくれた言葉が率直に嬉しいから、だから今日くらいは許してね。

久しぶりに茜色の空が味方してくれてる様な気分で居たアタシだったけど、行き違いにあの子が1004の病院に入って行った事をアタシは知らない。



(20090916)


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