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 03.



「………………」


どうやって、なんか覚えてない。

昨日光が意識を取り戻して、駆け付けた担当医が家族以外の方は退室して下さいって言った。それからどうやって家に帰ったのか、今日どうやって学校に来たのか、全然覚えてないしそんなことはどうでも良かった。

覚えてるのは、光が拒絶する眼。


『名前、』

「、蔵…?」


自分が何でここに居るのかも分からなくて、ここが部室だったんだってことも蔵の顔を見てやっと気付いた。

肩をポン、と叩いてきた蔵は今まで見たことない綺麗な顔で、だけど眉を下げて、憂愁より幽愁な眼でアタシを見てた。


『大変、やったな…』

「……………」

『オサムちゃんから連絡来た時は俺もビックリした』


明らかに気を使ってますと発露した声に返す言葉がなくて。アタシは、ビックリなんて言葉じゃ表せない衝撃と愁傷が襲ったんだもん…


『…とりあえずは、命に別状なくて良かったな』

「え?」

『せ、せやから、助かって良かったな、て「何が良いの?」』

『、名前』

「全然良くない!」


光の事が好きで好きで、やっと想いが叶ったのに

光の事好きになってからの思い出、光は全然分からないんだよ?
アタシが知ってても意味ない、アタシ1人が思い出を集めたって意味ない。


「蔵は光に会ってないからそんな事言えるんだよ」

『、』

「第一声に誰、って…引きつった顔で言われたアタシの気持ちなんか分かる訳ない!!」

『……………』


分かんないよ蔵には…
さっきのさっきまで普段通りだったのに、さっきのさっきまで一緒に居たのに、手繋いでたのに…
キス、してくれたのに…

“誰やねん”


「……っ、」

『…………せやな、』

「え、」

『財前は、名前ん事も家族ん事も、俺等の事やって何も覚えてへん』


あ……、


『せやけど名前は、財前の彼女やもんな…人一倍、苦しいやんな…』

「くら、」

『ごめん。軽率やったわ』

「――――――」


あんな顔、させるつもりなかった。
歪んでるのに、頑張って普通な顔、しないで。


「蔵……」


アタシだけがショックだったんじゃない。光ママだって、蔵や謙也や皆だって、きっとショックだった。幾ら光本人に会ってなくたって、自分の事を分からないなんて聞いたら……

蔵に八つ当たりしたって仕方ないのに。光の記憶が戻る訳じゃないのに。


「蔵…ごめん……」


カチャン、と静かにドアを閉めた蔵に小さく謝って、止まんない涙を制服の袖で拭った。

聞こえないのに謝ったって仕方ないもん…ちゃんと、謝らなきゃ。
制服のポケットから携帯を取り出してメール画面を開くと、蔵宛てのアドレスと本文にごめんなさいを記入して送信ボタンを押した。


「……ひか、る……」


メール画面から待ち受けに切り替えると、仏頂面だけど確かにアタシを見てくれてた光の写メがあって、やっぱり泣かずには居られなかった。

光、帰って来て。
アタシが無意識で部室に来たのは、多分、光との思い出がいっぱいあるから。光の匂いがする、から…。



(20090912)


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