vanillife | ナノ


 


 prayer.3



結局、退部届けをオサムちゃんに渡すことは出来なくてその一部始終を話してはおいたけど『オサムちゃんも受け取れへんかったら良かったわー』とか。
多分受け取ったら後々蔵にどやされるのが自分だから嫌だったに違いない。何て身勝手な教師なの…普通なら辛い思いしてる生徒が居たら親身になって相談乗るとか対処に応じるものなのに。


「あーあ…人生山あり谷ありってやつね…」

『何言うとんや』

「、謙也」


今、たった今洗濯が終わって干しに行こうとカゴを抱えてると新しい洗濯物を手にした謙也が頭をボリボリ掻きながら声を掛けて来た。
……この部活にはマイペースな男しか居ないの…!


『人生楽しく生きていかな損やで』

「悩み事も無さそうな謙也にはアタシの苦労は分かんないよ」

『阿呆か!俺にやって悩み事のひとつやふたつくらいあるっちゅーねん!』

「なにー?」

『……白石』

「……………」


本人に聞こえないように注意を払って、キョロキョロ周りを確認した後ボソッと呟いた謙也に、そこは大いに賛同を掲げた。多分アタシの次に被害を被ってるのは謙也だもん…そういう意味では被害者の会を立ち上げたい、とかね。


「謙也も可哀想だけど、アタシはもっと可哀想じゃん?」

『んー…』

「何、可哀想じゃないとでも言いたいの?」

『いや、なんちゅうか…もう諦めた方がええんちゃうか?』

「うわ!他人事だと思って酷い!」

『やって名前の人生て山あり谷ありやなくて山あり山ありやん。寧ろ谷谷谷か?』


確かに。
昇りがあって下りがある訳じゃなくて日田すら恐ろしい世界に下ってる気がする。
白石ワールドっていうのは計り知れない。


『せやから、白石と仲良うしーやっ!』

「ちょっと簡単に言わな『もう十分仲良しやんなぁ?』」

「!」

『し、白石…』


どうしていっつもこういうタイミングで出て来んの…!!間が悪すぎて背筋冷やっとするから!

当然ながらそんな気持ちも気付いてくれない蔵はアタシの腰を鷲津かんで引き寄せたら『絶頂ー!今日も程よい汗ばみ具合や』なんて言ってくる。どういう意味なんですか…!


『謙也ぁ、俺の名前にちょっかい出すん止めてくれへん?』

『す、す、スマンな…!ただ白石ともっと仲良くしたらええんちゃうかって言うてただけやで!』

『せやなぁ…謙也にしたら上出来やけど、そんな心配要らへんもんなぁ名前ちゃん?』

「寝言は寝てから言って下さい」

『ハハハッ、今日もツンツンしとんなぁ可愛え可愛え』

「違うし!」


蔵の肩を押して離れようとするものの、びくともせずにニコニコする蔵は『ツンデレが萌えるっちゅう気持ちが分かってきたわ』なんて言い出す始末。っていうかアタシはツンデレじゃないし!


「アタシ洗濯物干さなきゃいけないから離れて!」

『洗濯物と俺、どっちが大事なん?』

「洗濯物」

『せやな…俺の洗濯物にシワ残したないねんな…ホンマ優しいわ名前は!完璧な白石家の嫁や』


どうやったらこんな自己解釈出来るんだろう。何か蔵の将来が心配になってきたんだけど…まぁ蔵だし?大体のことは要領よくやるから心配なんて要らないんだろうけど…頭も良いし。

白石蔵ノ介を生み出すなんて世の中末恐ろしい、そんな事を思ってると謙也が逃げようとしてるのが見えた。1人だけ助かる気?光より薄情…!


『謙也、何処行くんや』

『へっ?!や、あの、白石と名前がラブラブしとるし、邪魔したらあかんなぁ思て隅っこで筋トレでもしよかって、』


超最悪だこの男……!!
逃げるだけじゃなくて蔵の勘違いに拍車かけるような事言い残して行く気!?


『フッ、ええ心掛けや謙也』

『せ、せやろ?ほなそういうことで…!』


アタシの方をチラッと見て口パクで『ごめん』って言ってきたけど今度から謙也のドリンクは薄目に作ってやる。

間違いなく気分を良くしたであろう蔵をどうしようかと思ってると、


『待ちや謙也』

『、え?』


何でだか蔵は謙也を引き止めて。


『しゃーないから見せたるわ』

「見せたるって、何を――――っ!?」

『な、なっ………!!』


ニンマリと笑った蔵がかなりの至近距離に居て、ちゅうっと音を立てたと同時に首筋がチクッと痛む。

一瞬何が何だか頭がパニくったけど、真っ赤になってわなわな震える謙也と微かに痛む首から何が起こったのかは安易に分かって。


「な、何すんの変態っ!!」

『何って、愛やろ?』

「ふざけないでよ…!」


当然、羞恥心と苛立ちのバロメーターがマックスに達したアタシは右手を振り上げたけど容易に手首を掴んできた蔵は、


『名前は俺のやっちゅう、』


 し る し 

耳にふぅっと息を掛けてきたもんだからアタシは謙也以上に茹で上がった。
(白石蔵ノ介の大馬鹿野郎…っ!)



(20090802)


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