余所見する暇も無いほどに
愛して下さい
charm.3-2 愛する者
名前は誰とでも仲がええし、大抵誰からも好かれてて、逆に名前が懐いてるのも知ってる。
せやけど財前はその中でも一番特別っちゅうか、他とは違う気がすんねん。
「名前ちゃん?」
『う、うん?』
「そない財前とイチャイチャイチャイチャベタベタベタベタするん楽しかったん?」
『そ、そんな2回ずつ繰り返さなくても良いと思うんだけど、』
「……何や言うた?」
『なななな何も言ってません!』
名前がこうやって俺を見て焦る顔は意外にも好きやったりする。
虐めたい、っちゅうのも勿論のこと、俺に対して少ないながらも忠実心があるイコール俺ん事が好きやっていうのを汲み取れるから。
本気で叱らなあかんと思う時も頻繁にあるけど、結局最後に折れる俺は“追い掛けて欲しい”彼女の気持ちを慶んでて、実際追い掛けたいから。
せやけどコレはコレ、ソレはソレや。
『部長ー、名前が昼寝したかったらしいんで俺の胸貸したんですわ』
「財前、まだ居ったん?」
『あああ!そう、そう!別に悪気あった訳でもないしね、ちょっっっと眠かっただけだし、』
「よう分かった、名前は眠なったら誰の胸でも借りるっちゅう事やねんな?」
『ち、ちち違っ…!』
『部長以外ならええんちゃいます?』
「へぇ?」
『ひひ、光!』
ほなお先ー、と今度こそラケット片手に部室を出て行く財前にも幾つか言いたい事があったけどまぁまぁそこは引き止めず出て行って貰って。
「…………」
『やっぱり、怒ってる…?』
2人なった途端しおらしい顔を見せて怖ず怖ず聞いてくるけど、名前にはどう見える?
怒っとる様に見えるんか、怒ってない様に見えるんか。
『でもね、光がね、』
「何か言うてた?」
『え?』
「財前、ちょっと可笑しかったやんな?」
『気付いてたの?』
一概に元気が無いって言うより静寂さを隠せて無かった感じ。
そんなに名前が恋しい?
「財前には名前しかあかんから」
『…うん』
「財前が元気になったんなら良かったな?」
『蔵…ありが「とか言うと思うん?」』
『へ、』
幾ら財前が落ちてる言うたってな、他の男に易々と触らせたらあかん言うてるやろ?名前はまだ分からんの?
「名前ちゃん、」
『く、蔵?』
「名前が好きな男は誰や」
『ももも勿論蔵に決まってるじゃん!』
「…………」
『蔵好き!好き好き大好き愛してる!』
「………ん、」
『あの、蔵、――――っ、』
そっと引き寄せた背中を強く抱き締めて名前自身を確かめる。
俺の腕の中に居る名前こそが彼女なんやって。
「…あんまり、心配させんで…?」
『……………』
「名前が財前に行ってしまいそうやねん」
『、そんな事ないのに…』
「俺やって不安くらいあるんやで?」
『なんか、嬉しい』
「どの口が嬉しいとか言うとんや」
『ふふー、蔵も人間なんだね』
「当たり前な事言わんの」
他の男と違て財前が気になるのはアイツが名前を見る目が俺と同じで、優婉で。
そんな財前を名前も嫌いな訳無いから不安になる。
簡単に擦り抜ける様な形の無い恋愛が春を過ぎて散っていく花弁みたいに儚く感じて落莫するんや。
せやから、名前は大人しく俺の隣に居て下さい。
『はー、白石もこういう顔すんねんな…』
『謙也先輩はいっつもあんな顔スわ』
「…………」
『ど、どういう意味や!』
『ヘタレで始まりヘタレで終わるっちゅう事やろ』
『んな訳あるか!』
「んな訳あるもクソも何が言いたいんや、謙也も財前も」
『しし白石!別に覗いてた訳ちゃうねんで!うんちゃうちゃう!』
『謙也先輩が見たい言うたんスよ』
『そやって財前は何でもかんでも俺に押し付けんなや!!』
「謙也、財前?外周30周」
『何で俺まで…』
『理不尽過ぎや白石ぃぃ!』
「ええから早よ行かんと日が暮れるで?」
『あっはは!頑張ってね謙也も光も』
『名前先輩、走った後は“ちゅう”お願いします』
「財前っ!!」
結局は彼女の家出が無い日もそれなりの苦労があるっちゅうこと。
(200905)
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