(ver. hikaru)
知ってました?
俺、“寒がり”なんですわ
charm.3-1 恋する者
『おっはよ光ーん!』
「おはよって、さっき会うたし放課後やないですか」
『気にしない気にしない』
前回引き続き今日もまた放課後、各委員会がそれぞれあって俺も行って来た訳やけど。
数分早く部室に来てたらしい名前先輩は1人暇そうに携帯を弄ってた。
「今日辺り、部長居てへん間に家出する思った」
『アハハだよね、アタシもそうしよっかなって思ったんだけど』
「何?」
『今日フラフラしに行ったらお尻叩くって言われた』
「……………」
そんなん言うても部長が名前先輩に手挙げる訳無いって分かっとるんやろどうせ。愛想尽かされたないって、たまには大人しくするだけやねん。
ほんまこの馬鹿ップルに付き合うのは阿呆らしい。
「ほな、今日は俺で我慢しときます?」
それでも引き寄せて足と足の間に収めたくなるのは…
何でやと思います?
『光、何かあった?』
「別に」
『光が元気無いならアタシも元気無くそうかな』
「何やそれ」
『光と同じ気持ちで居てあげようっていうアタシの優しさ?』
「ハッ、要らんわ」
『嘘はいけないよ光くーん』
“はい、善い子善い子ー”
いつの間にか反転した身体は腕を目一杯伸ばして俺を包もうと甘い薫りを漂わせた。
『ね、嬉しい?』
「ほんま阿呆スわ」
『光の“阿呆”は愛情だから善いよ』
「…………」
あーあ、ほんま嫌やこの人。
馬鹿丸出しやのに意外と人の事ちゃんと見てて、100%正解やないにしても強ち間違うてる訳でも無くて。名前先輩のが放っておかれへんタイプやのに自分がそう思われとるなんや…めっちゃ癪。
「名前先輩、」
『うん?』
「もっと力あるやろ」
『うん?』
「もっと強く、」
『…甘えた光』
「うっさいスよ」
ぎゅうぎゅうと込められた力に、俺の背中が腕が、
名前背中の顔を埋めた胸が、
全身から“愛してる”を伝えてしまいそうやった。
何をしたって何を言ったって部長に適うはずが無いのに心は裏腹で先輩を嫌いになればなる程愛を深めるだけ。
いつから俺はこんな哀愁を背負う様になったんやろうか。
『このまま寝てもいーい?』
「ええっスよ」
『うーん…ひかるが珍しく優しい』
「いっつもの間違いですわ」
彼氏とか恋人とか
そんな愛情は貰えへんけど
それより深い家族愛の様な愛情で俺を愛して下さい
それくらいの贅沢したって罰当たらへんやろ?
『あかん』
「、」
『誰が財前の上で昼寝してええ言うたんや名前ちゃーん?』
『く、くく蔵!』
「あー部長、いつの間に居ったんです?」
『今や。今の今のたった今や』
いつもなら保健委員は軽く1時間2時間も訳の分からん話をしとるはずやのに、40分余りで現れた部長に名前先輩は計算外やったに違いない。
瞼を綴じて穏やかな顔してたはずやのにギョロギョロ眼を泳がせて『やばいやばいやばい』と連呼する。部長が来たからには俺は知りませんよ?
『は、早かったね今日は!』
『名前が心配で心配で委員会どころやなかったんや』
『あ、うんうん、全然大丈夫なのに!ね、ひかる……ひかるっ!?』
『財前なら謙也んとこ行ったで名前ちゃん』
『うう嘘!光の裏切り者…!』
『名前はそない財前が気になるんやなぁ?俺が居るのに何でなんやろなぁ?』
『あ、や、そうじゃなくて…!あああたしは蔵が一番だし、大好きだし、愛してる、よ…?』
『分かった』
『ほ、本当!?』
『ほな今すぐ此処で愛を囁いて貰おか、なぁ名前ちゃーーん?』
『…へ、…あ、…やだぁぁあああ!!!』
名前先輩、叫び声まで可愛いとは言うわへんけどそそられますわ。
せやから助けたりなんかしません。
(200905)
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