platonic love | ナノ


 


 羨やむ僕



(ver. akaya)

この世に“絶対”なんて存在しない
そう思ってたのに
君が綺麗に見えるのは隣にあの人が居るから

それは“絶対”


charm.2-1 羨む僕


「な、何スかこれ…」

『うわーすっごい!!』


あの後、即刻買い出しを済ませて“旦那”こと白石さんを待つ為に(本音を言うと待ちたくはないけど)名前ちゃんや仁王先輩と立海へ戻ると、部室は有り得ないほど華やかに飾り付けが施されていた。
色紙で作られた輪っかや園芸部が大事に育てている植木が並べられてあって(多分勝手に拝借したに違いない)何が何だか分からない。


『急遽用意したにしちゃ天才的だろぃ?』

『今日は名前が来ると思ってね。皆に協力してもらったんだ』

「え、名前ちゃんが来るの分かってたんスか幸村部長!」

『さっすがゆっきー!』

『フフ、名前はこういう何が面白いのか良く分からない様なくだらない事が好きだろ?』


本当、流石は幸村部長。
躊躇いもなく言い切る辺り怖い。あの名前ちゃんでさえ眉間にシワを寄せてる。


『やっぱり立海に来たら精市に会わなきゃ終われないよね…』

『それは告白だと受け止めていいのかい?』

『うーん…』

『嫌だな、否定なんてしたら真田からの熱い抱擁だよ』

『ゆっきー大好き過ぎて困るー!!』


名前ちゃんと幸村部長の会話に顔を背ける真田副部長が小さく見えた気がした。
それに気付いてるのか否か、ブン太先輩は真田副部長を押し退けてチョコレート片手に名前ちゃんの肩を掴む。あ、幸村部長の眉が一瞬動いたけど気付かないフリで。


『でもまさか名前が転校してくるとは思わなかったぜ』

『え?転校?』

『転校だろぃ?』

『そんな事した覚え『あれー、名前の転校手続きの書類がこんなとこにあるなぁ』』

『ええ!?』

「しょ、書類……」


ああ…毎度お馴染み幸村マジックってやつっスか?本当にこの人は不可能を可能にする、何でも出来る人なんだ、なんて感心…否、関心してると右肩から厭な悪寒が背筋を伝う。
もしかしなくともこの感じは、


『誰が転校やって?』

『蔵っ!』


やっぱりアンタっスか…っつうか俺の肩に手乗せるん止めません?このタイミングで来て怒りたい気持ちも分かりますよ、分かるんスけど包帯からどす黒いオーラ出てますって…!


『やぁ白石、何しに来たんだ?部外者は出て行って貰えるかい』

『ああ、直ぐ帰るわ、悪いな邪魔してしもて』

『本当に邪魔だよ』

『…………』

「あだだだだっ!!痛いっ、痛いっス!!」


幸村部長と一言交える毎に俺の肩は悲鳴をあげてて、旦那が来たからには俺はノータッチで居たいのに早くも巻き込まれる。
仁王先輩、笑ってないで助けて下さい。


『名前、帰るで』

『え?もう帰るの?』

『当たり前やろ』

『でも蔵怒ってるもん!帰ったらお説教なんでしょ?』

『当然や』

『えー…』


確かに名前ちゃんが嫌な顔するのも分かる。きっと旦那も幸村部長と同じ類いだろうし、直ぐ横で感じるピリピリとした空気が既に怖えもん。


『ほな行くで?』

『…どうしようブンちゃん』

『つか転校したんだろぃ?』

『それはしてないけど』


名前ちゃん。悪いけど早くブン太先輩から離れて旦那の方行ってくれないと俺の肩ダメになっちまうって。
幸村部長だってすっげー顔して笑ってんじゃん…


『白石と帰りたくないならハッキリ言いなよ名前』

『え、』

『立海に居たいんだろ?ハッキリ言ってやらないと白石は分からないタイプなんだよ。あれあれKYってやつ』


幸村部長も十分KYなんでお願いだから煽らないで下さい。このままじゃ肩駄目になって俺のテニス人生終わっちゃいます。


『で、でも、』

『ええよ。名前が好きな方選び?俺と帰るんか、此処に残るんか』

『…………』


そんな駆け引きみたいな事言ったって白石さんに帰るのは分かってんじゃん。結局最後は惚気で終わり?
俺、肩が痛かったっていうのに良い迷惑なんすけど…(口が避けても言えねーけど)


『名前、どっちや?』

『えっと…』

『……決められへんなら俺は帰るで』


あれ?いつもなら無理矢理引っ張ってくのに。
(多分お説教が嫌で)言葉を濁した名前ちゃんを突き放す白石さんに皆瞠若してた。


『ほな』

『…や、やだ!置いて行かないで!』


「…………」


途端、ブン太先輩から離れて飛び込む名前ちゃんに向けた旦那の顔は今まで見た事がないくらい愛に満ちた優しい顔だった。

ああ、そっか。
最終的に自分を選んでくれる事が、分かってても本当に幸せっつうこと?
多分名前ちゃんみたいなタイプは当人からしてみれば面倒臭くて相手してられない。第三者だから可愛いと思うだけで、もし俺だったらとっくに愛想尽かせてるんだと思う。

名前ちゃんは人一倍愛情に餓えてて、家族愛、友情愛、全部が欲しくて皆に甘えてるじゃねぇかって。そんな中で、帰る場所を示してくれる旦那を心底想って好き放題一番に甘えてんだ。

面倒臭いし、いつも大変そうだけど…やっぱり白石さんが羨ましいなって思った。
俺も彼女欲しいっス。


(あー面白くない。赤也片付けとけよ)(お、俺1人でっスか!?)(それからブン太はお菓子没収)(何でだよ!!)(何、口答えする気?)(や、別に…)



(200905)


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