platonic love | ナノ


 


 喜劇



特別っていうのがこんなにも満たされることやって
全身全霊で受け止めた


charm.5-2 喜劇


『…重、』


職員室を出て直ぐ、廊下を歩きながら隣で財前はそらもう機嫌が宜しくないことこの上無い表情で重い、重い、繰り返した。


『新しいボールが届いたんはええけど普通部室に運んでくれるもんなんとちゃうんですか』

「さぁ…業者が職員室に運んだ言うからしゃーないし」

『こういうのは謙也先輩の役回りや思うんスけど』

「それがな、謙也が見当たらへんかってん」


段ボールに目一杯詰め込まれたボールを抱えて愚痴を溢す財前やけど、俺が苦笑した途端なんや悟った顔でこっちを映す。


『今日は部長の機嫌が悪いやろうから避難したんやと思いますわー』

「避難て…」

『あの人なりの防衛本能っちゅうやつ』


防衛本能ってな、俺も大人気なく謙也に八つ当たりなんや…するかもしれんけど。謙也は一々一言多いねん、せやから俺が矛先を謙也に向けるだけであって……。

千石君と佐伯君が来ることに、あーあ、溜息が止まらへん俺やけど反して財前は面白そうに笑ってた。さっきまで重いて文句言うてたくせに他人の不幸(っちゅうか苦労)は自分の幸せか、自分も名前が好きやからってそらないわー。


『あ、言うとる傍から、』

「え?」

『部長アレ』

「アレってなん――………」


やっとテニスコートが見えたと思えば広がる景色は名前が佐伯君に擦り寄る姿(と謙也と千石君)。
予想打出来た現状に溜息も何処か消えて飛び切りの笑顔が込み上げる。ホンマなら手に持ったボールを投げ飛ばして引き剥がしに行くところやけど、散乱したボールを片付けるのは後々面倒臭いしそんな無駄なことはせえへん。
せやけど、きっちり説明はして貰おか名前ちゃーん?


『こらこら、そんなに引っ付くと俺が我慢出来なくなるだろ?それともそれが狙い?』

『やっだ!虎次郎ってばやらしー!』

「名前、」

『はいー?って、蔵ー!何処行ってたの?』

「新しいボール運んでたんや」


青ざめる謙也と千石君に邪魔が入ったと笑う佐伯君。
佐伯君のその余裕が無性に勘に触って、今度ある練習試合も撤回させて頂こうと思った。大会が始まる前にお互いええ刺激になって士気が高まると思てんけど四天宝寺にそんなん要らん。元より六角(と山吹)に負けるつもりも微塵に無いし、練習試合ならそちら2校でやればええねん。練習に託けて名前が狙いやとか、こちとらお断りっちゅうねん…!
せやけど、それにしても名前は何であんな普通なん?いつもなら今の謙也みたくあたふたしては挙動不審になるんに…


『し、白石、落ち着きや…?』

「謙也、俺の何処が落ち着いて無いって言いたいん?」

『いや、その…』

「それより名前ちゃん。何やってたんや?」

『何ってー…千石君の短所について丁寧に教えてあげてた?』

「フーン?」


それで尻軽千石君より佐伯君がええって?今日は佐伯君が来てくれてご機嫌て?
幾ら家出せんで偉い言うてもな、佐伯君の腕にしがみついてるのは褒められた事ちゃうねんで?
今日もしっかり分からせたるから覚悟しときや?

そう思てボールをベンチの上に乗せたのに、


『千石君よりこじのが好きだけど、こじより蔵がもっと好き』

「―――――」


急に佐伯君から離れて俺の背中に飛び込んで来るから拍子抜けして。『まだ帰らない』『だって、』言い訳を並べるのが名前やのに?


『だけどね、ボール取りに行くなら言ってくれればアタシも一緒に行ったのに』

「あ、ごめん、な?」

『蔵が居なくなって寂しかったんだからー…』

「……………」


言うても、ものの5分くらいやで?ほんまに寂しいて思たん?
わざわざ口にして聞かんでもお腹に回った手からは相応の力が込もってた。

なんやねんもう…。
平静ぶってた自分が恥ずかしくなるやろ?


「名前、後で埋め合わせしたるから、な?」

『本当?ジュース買ってくれる?』

「うん。好きなん選び?」

『やった!』

「そういう訳やから千石君に佐伯君、練習試合についてとっとと話そか?」


脳内で“千石+佐伯<俺”の方程式を作った俺は勝ち誇った気分で笑顔を向けた。
その時の千石君と佐伯君の顔と言えば…ハッハッハッ!世の中勝ったもん勝ちや!


(なぁ財前、白石の考えてる事が分かる気がして嫌やねんけど)(今回おもんなかったスね)(いや平和ならそれでええねんけど…)(ハァ?せやからKYヘタレ言われるんですわ)(け、けーわいはそない言われた事無いわ!)(何回やって言うたりますわ、KYKYKYKYヘタレKYKY)(うううっさいわ!)



(20090717)


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