07.
甘いのはケーキかあの人か
両方だと思っていい?
vol.7 sweet sweet
『おかえり』
「…何でまた蔵が居るの?」
『折角御客連れて来たっちゅうのに』
「お客?」
光と別れて家に帰ると当たり前みたいに出迎えてくれた蔵に例外じゃなく構えちゃって。
また何か怒られるのかと思って怪訝になったけど部屋に入るとそこに居た人物に目を疑った。
『あ、か、勝手に上がってしもて堪忍な』
「謙也……?」
『け、ケーキ買って来てん!一緒に食べへんかなって…』
謙也がアタシの部屋に居ることが不思議なのに、ケーキが入った箱を持ってる謙也も不思議で。
「何で、ケーキ?」
『そ、そら誕生日言うたらケーキやろ!それ以外浮かばへんかっ『謙也』』
『あ……』
『謙也に口止めしたって意味無いんは分かってたけど口滑らすの早すぎや』
『すまん…』
『名前、勝手に話してごめんな』
じゃあなに?
蔵がアタシのパパの事を謙也に話して、謙也はパパの誕生日だからケーキ買って来てくれたの?
『堪忍!余計な事やって分かっててんけど、何や出来ひんかなって…』
「…………」
『ホンマ迷惑やったら帰るから、勿体ないし良かったらケーキだけでも食べ―――……』
「ありがと……」
あれ以来、友達なんか別に居なくていいって、好きな人だって今は要らないって、人と一線置いて生きてきたのに。
素直になれば心配してくれる手があるってこと、それが謙也だから尚更感動した。
『名前…』
「あ、ごめ、」
無意識に掴んでた謙也の腕をパッと離して我に返れば羞恥心が込み上げる。
感極まったからって何触っちゃってんの…!
『名前、』
「、え?」
『ほな、一緒にケーキ食べてくれるか?』
「……うん」
『あーあ、熱いのはええけど俺の存在忘れてへん?別に構へんのやけどな、邪魔者は退散するんが筋やし?』
『ししし白石!!何言うてんねん…!』
『照れんでええねんで謙也』
『照れるとかそういう問題ちゃうやろ!』
『どうなん?名前?』
「あああアタシに振らないで!」
『シャイコンビは困るわ』
これじゃあ、アタシが謙也の事好きなのバレバレじゃんって蔵に怒りたくなったけど、それでも謙也が買って来てくれたショートケーキは甘くて美味しかったから怒る気も失せただなんて単純?
□
「ふっふーん」
『朝練来とる上に偉い上機嫌やん』
「あ、光ー!何でアタシが幸せなの知ってるの?」
『鼻歌』
「あーそっか」
一晩寝たって謙也の優しさとケーキの甘さは忘れられなくて、嫌だった部活も楽しみになってた。
迎えに来た蔵にも笑われたけど嬉しい事があれば人って頑張れるもんでしょ?
『で、何があったんや?』
「ねぇ光、朝練始まる前にジュース買いに行こうよー」
『ええけど…』
光にだって、会いたくなかった気持ちは薄れて昨日一緒に土手まで行ってくれたことに感謝してる。
「光ー、バナナミルクが良い」
『何でも好きなん買えばええやろ。で、何があったって?』
「、ああ!!」
『なんやねん』
「ひかる、またお金が無い…バナナミルク買えない…」
『人の話散々シカトこいて金が無い?昨日から金融業者かパトロンか勘違いしとんちゃうか?大概にせえよ』
「ご、ごめんてば…ちゃんと返すから…!」
この阿呆女、悪口ばっか並べるけど、自販機にお金入れてちゃんとバナナミルクを買ってくれる辺り、やっぱり光も優しい。
『で?昨日何があったんや』
「昨日?あのね、謙也がケーキ買って来てくれたの」
『…それだけ?』
「うん!超優しくない?」
『なんや大した事無いやん』
「超大した事あるじゃん!」
優しいって認めたばっかりだけどやっぱり光は冷たいかもしれない。そう思ったのに、
『良かったやん』
「…………」
自分用に買ったコーヒーを飲みながら口角を上げた光に感染して笑うアタシ。
END.
(20090619)
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