aty | ナノ


 


 06.



素直になれば
見えないものも見えてくるもの


 vol.6 response


『お疲れさまでしたー』


辺りがオレンジ色へと変わったところで漸く部活は終わったらしく。
こんな時間まで学校に居たの初めてだなぁって。謙也のテニス姿が見れたのは嬉しいけど、普段引きこもり生活をしてきたアタシにとって、授業が終わってから部活までとなるとかなりキツかった。


『名前、お疲れさん』

「…本当にお疲れだよ」

『ハハ、頑張ったなぁ。せやけど明日からは朝練もあるんやからな?』

「えー…っていうか蔵は本当はMなんじゃないの?こんなに身体疲れさせて楽しいとかマゾだよマゾ」

『安心し?俺は完璧サディズムやねんから』

「サディズムって…」


その言い方もどうなの?
疲労感たっぷりなアタシに対して何てことない顔してる蔵を見ると余計疲れる気がする。


『まぁ今日は1日よう頑張ったしご褒美にご飯でも奢ったるわ』

「本当?なら早く行…ちょっと待って」

『うん?』

「今日って……月曜じゃん?」

『せやで?明日も学校やで』

「あーもう!だめだめ忘れてた!アタシ行くとこあるから帰る!じゃあね蔵!」

『名前、』


今まで忘れたことなんて無かったのに何で忘れてたんだろ。それだけ“夢中”だったってこと?今日が楽しかったってこと?


『あれ、名前もう帰るん?』

「、ごめん謙也、急いでるから」

『そうなん?ほなまた明日な!』

「―――、うんまた明日…」


楽しかったんだ。蔵に無理矢理引っ張られて来たけど、学校も部活も楽しかった。謙也と明日を約束すればそれだけで明日が待ち遠しくて、棒みたいな足が軽くなる。


『部長、何や猛スピードで出て行ったけどええんです?』

『ああ…』

『なぁ白石、名前どないしたん?』

『うーん今日て何やあったかな…あ。』

『え?』

『今日は…名前にとって大事な日や』

『大事な日?』

『うん…』



  □



「うーん…たっかいなぁ…」


閉店間際の花屋でどうしようどうしようって悩むアタシは店員さんからすれば迷惑でしかないんだろう。だけどどれもこれも値が張る花を前にすると…高校生には痛いんだからね。


「これでいいかな」

『何やってんねん』

「げ!光…」


既に籠にアレンジされた花に決めようかな、なんて思った矢先、後ろには光が居て。こんな時に寄りによって光に遭遇するとかツイてない。


『げ、ってめっちゃ失礼やな』

「だから言ってるんだもん」

『よう言うわ…っちゅうかこんなとこで何やってんねんて』

「お花買ってるの、見れば分かるでしょ?」

『フーン』

「もういいじゃん、放っといてよー!あ、コレ下さい」

『2500円になります』

「はーい」


そんな言い方せんでもええのに、って言う光は無視して鞄から財布を取り出すけど。


「………ひかる、」

『は?』

「今日小銭入れしか持ってない…500円しか無い…お金貸して…」

『放っとけ言うたくせにふざけんな』

「そんな事言わないでー!明日返すから!」


前言撤回、光に会えたのはツイてたってことで、眉間に深いシワを寄せながら財布を出してくれる光には感謝しちゃう。


『あーあ、たかられるとは思わへんかったわ』

「ありがと光っ!じゃあアタシ行くね」

『ちょう待って』

「え?」

『俺も一緒に行ったる』


別に来なくていいのに。言いたいけど隠す様なことでもないしお金借りた手前そんなこと言えなくて。
何を考えてんのか分かんないけど、後ろを歩く光を連れて近所の土手まで急いだ。


『はー何や此処』

「アタシね、昔は大阪に住んでたんだよ」

『フーン』

「よいしょ、っと」

『は?』

「うん良い感じー」

『人が金出してやった花を川に投げ捨てて何がええ感じや…ホンマふざけんのも大概にせえや阿呆名前』

「痛い痛い!頭掴まないでってば!」


青筋立てて怒る光だけど、この為にお花買って此処に来たんだもん。しょうがないじゃん!


『はい説明して』

「……最後にパパに会ったのが此処で今日はパパの誕生日なの」

『…………』

「今のパパは好きだけど2番目の人だから」


アタシが小さい頃、パパとママは離婚して一切会うことも出来なくて。何が何だか分からなかったけど幼ながらに深く聞いちゃ駄目なんだって分かって、新しく出来たパパにも早々に馴染んだ。
だけど向こうから誕生日に毎年花を贈ってくれて、メッセージカードに一言だけ必ず“お誕生日おめでとう”って書いてくれたの。それが凄く嬉しくて、最近では毎年パパの誕生日にはこうして大阪まで来て花を川に流してた。
何処に居るかも分からないから気持ちだけでもパパに届きますようにって。


「蔵が今みたいに過保護になったのもパパが居なくなってからなんだよ。パパの代わりでもしてくれてんのかな」

『…………』

「光はさ、嫌悪に思うかもしれないけど…アタシがこんなことするのって小説の影響だったりするのー」


理解ってくれとは言わないけど、
馬鹿らしいって思われるかもしれないけど、
アタシがヲタクになって読んで来たお話は暖かくて素敵なものばかりだったから。光には申し訳ないことしたけど、暖かくて感動したからこそ影響力は凄まじかったの。


「用事も済んだし帰ろう?」

『…………けど…』

「ひかる?」

『何でも無い。帰ろか、名前チャン?』

「――――――」


部活中、面白可笑しく笑ってた光は十分に見たけど…今、本当に優婉な笑い顔を見た気がして少しだけ僥倖なのかなって思ったのは秘密。

“別に、嫌悪ちゃうけどな”



END.

(20090613)


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