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 05.



もし嘘でも本当でも
止まらないんじゃないかなって。


 vol.5 lie


“早よ忘れたら?”
ほんの少しだとしても、まさか光がアタシの事理解ってくれるとは思わなくて、嬉しいんだけど拍子抜けっていうか…兎に角ビックリした。(きしょいはちょっと傷付いたけど)


『財前と仲直りしたん?』

「あ、うん…多分?」

『そか、良かったな!』

「謙也…」

『蟠りも取れたとこで、今日から一緒にテニス部頑張ろな!』


綺麗さっぱり忘れたんだって思ったのに。ニッと歯を見せて笑う謙也は、本当は気にしてくれてたんだ。
そういうの、じーんと来ちゃう。ラケットを持ってテニスコートへ向かう謙也の背中が何か愛しい。


「…………」

『へーえ』

「、ひ、ひかる!」

『フーン。謙也先輩ね』


さっき良い別れ方した筈なのにいつの間にか隣に居る光はニヤニヤしてて。何で居るの、って突っ込みたかったけど所詮は同じ敷地内に居るんだもん、言うだけ無駄。
だけどその顔、何だかなぁ…


『ええ人や思うで、昔の男に比べれば』

「一々嫌味言わなくていいですーアタシ蔵に何しなきゃいけないのか聞きに行って来るから」

『あ、謙也先輩』

「え、」

『――が後輩と話しとるわ』

「…………」


わざわざ振り返る自分が憎いけど光のベタベタな冗談がもっと憎い。
普通はさ、こういう時は『仲取り持ってあげる』くらい言ってくれるもんじゃないの?
優しいかもしんないとか思ったの撤回!


「アタシ行くから!」

『ええ事教えたろ思たのに』

「え?」

『聞きたい?』

「―――――」


相変わらずニヤニヤしてるのに、それでも何処か優婉に見えたから、だからつい甘えたくなったのに。
……聞くんじゃなかった。


「………………」

『どないしたん名前?』

「………………」

『そない睨まれとったらテニスもやりづらいねんけど…』

「…だって蔵ムカつくんだもん」


光が言うには、やっぱり蔵と謙也はそういう関係で世間体はよく思われないから隠し通してるとか何とか。
あれだけ蔵が否定してたんだもん、嘘っぽい気もする。でも相手は蔵だもん…蔵なら完璧に隠し通すことくらい難なくやってのけそうじゃん…

アタシもヲタクになるまで多分偏見を持ってたけど…だけど作り話とは言え、BL小説とか読んでると…恋愛は自由だって思うようになった。寧ろ男女の恋愛より綺麗なのもかもしれないし。
だからって言って、何で相手が謙也なの!どうせなら蔵が光とイチャイチャしてれば良かったのに。


『ムカつくて…覚え無いねんけど俺何やした?』

「自分の胸に聞いてみれば」

『え?』

「蔵はアタシに嘘吐かないって思ってたのに…応援してくれる素振りしといて本当は自分が謙也と、とか酷い」

『……………』


そうだよ、光から謙也に乗り換えたアタシの事、1番に理解してくれたみたいな顔しといて酷い。
それなら初めからそう言ってくれてたらアタシだって謙也の事…


『謙也ー!』

「な、何でそこで謙也呼ぶの!」

『何やねん白石』

『名前が未だに俺と謙也がラヴラヴや思てるらしいで』

『は?ら、らららラヴラヴとか気色悪いこと吐かすなや!ホンマ鳥肌立つわ!』

『せやなぁ、俺も久しぶりに吐き気するわ…健康管理は完璧やってんけど』

「そ、そんな嘘もういいもん…」

『嘘なわけあるか!!』


そこまで必死になって隠し事しなくてもいいのにって、未だ認めない2人に段々腹が立ってきて。


「何で本当のこと言ってくれないの!」

『な、何がやねん!』

『…名前、大きな勘違いは大概にしとき?財前もこっそり笑わんと出て来なさい』

「は、」

『あーバレてたんですー?』

「なに…」

『名前は財前に変な事吹き込まれたんやろうけど俺は俄然女の子がええ。謙也は知らんけど』

『阿呆か白石!俺かて男なんやぜっっったい嫌や!!』

「…そうなの?」


ってことは本当の本当は光が冗談言っただけで謙也は蔵と何も関係無いの?


『あーあ、折角面白かったのに』

「光…普通謝るとこじゃないの」

『別にーそれが嘘かなんや実際分からへんやん』

『財前、ええ加減にしなさい』

『ホンマや!変な誤解生むような事言うん止めや!』


光に玩具にされてた事は癪で仕方ないけど。
だけどね、


「…謙也は、彼女も彼氏も居ないの?」

『彼氏っちゅうん止めてくれへん…』

「うーん、じゃあ好きな人」

『今んとこ居らへんで!』

「………………」


謙也の口から好きな人が居ないって聞けて、それならアタシも頑張って良いのかなって元気が出たの。



(20090610)


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