04.
頑張れば頑張った分
優しい手がいっぱいになる?
vol.4 comfort
「い、いやだ…!」
『ええからおいで』
「嫌だって言ってるじゃん!頑張って授業も受けたんだしもう帰らせて!」
『半分以上寝るか携帯弄ってたくせによう言うわ』
「げ…チェックし過ぎ…と、とにかく嫌だから!」
かったるい授業も何とか終えてやっと帰れる、なんて思った矢先拒んでくるのは蔵の手。
さも当然みたく『テニスコート行くでー』って言われたってそんなの絶対絶対嫌だ。
『テニス部行ったら謙也が居るんやけどなぁ…』
「どういう意味なの」
『携帯見ながらチラチラチラッチラ謙也の方見てたんは誰やろか?』
「…蔵のそういうとこが嫌い」
『俺はそういう名前が可愛えなぁと思うけど?』
今朝、謙也に言われた事が妙に頭に残って、気が付いたら謙也ばっかり眼で追ってる自分。
それすら蔵にバレてただとか奴の観察力は人並み以上ってことか、それともアタシが分かりやすいだけなのか…兎に角、弱味を握られたみたいで良い気はしない。
『まぁ、謙也の事はどうでもええねんけど、』
「その言い方もどうなの」
『ハハッ、兎に角や。名前は今まで引きこもってた分、外の世界を見なあかん』
「別に困ってないもん」
『あーかーん。ええから来なさい』
「いーや!!アタシは蔵みたいに運動して爽やかな青春送りたいだとか微塵にも思ってないから!それにテニス部は、」
光君が居る。
会いたくない相手が居る。
どんな顔してテニスコートに居ろって言うの…
『…あんな、テニス部員なんやいっぱい居るんやで?財前と2人きりになれて言うてる訳ちゃうんやから』
「…………」
『名前には俺だけやなくて謙也も居るやろ?』
こんな言い方も可笑しいけど、謙也はアタシの味方。謙也が居てくれるなら、アタシは大丈夫なのかもしれない。
『どうしても嫌んなったら、その時は帰ってええから』
「…分かった」
『そうと決まれば名前はマネージャー決定やな!』
「どーして!」
やっぱり光君に会うのは気が引けるけど、蔵がアタシの為に言ってくれてるのも分かる。
二次元の世界が趣味だとしても、いつかはアタシだって仕事して結婚だってしたい。それを考えたら今から色んな世界を見るべきなんだって、謙也じゃないけど今しか出来ない時間を楽しむべきなんだって、少しだけ前向きに思えた。
それも謙也のお陰なの?
『っちゅう事で今日から俺の従姉妹の名前がマネージャーやってくれるから皆宜しくしたってな』
「だから何で決定なの!」
前向きとは言えど渋々やって来たテニスコートではマネージャー宣言されて逃げ場が無くなる。
普通に逃げるのも有りだけど、蔵の顔が汚れるのはちょっと罪悪感あるじゃん?今まで頑張って来たみたいだし。
『へぇ、マネージャーやるんや』
「!」
『ほな早速マネージャーさんに話あんねんけど』
そんな事言って蔵の心配してる場合じゃなかった。
どうにか光君は回避するつもりだったのに向こうから声掛けてくるなんて予想外の展開。
俄然お断りしたいのに厭な威圧感があるのはアタシの脳が危険人物だと認識しちゃってるからなの…?
嫌なら帰っていいって言ってくれた蔵は知らんぷりだし、味方である筈の謙也は『部活あるんやから早めに終わらしやー!』って!
蔵は確信犯だとしても、まさか謙也は今朝の出来事忘れたりしてないでしょうね…!
「あ、あの、話って…」
『聞きましたわ』
「え?」
『謙也先輩から昔のこと、聞きました』
「……………」
昔のことって言えば間違いなく遊ばれたってことだよね。
寧ろそんな嫌な過去知られたくないから聞かなくていいのに…っていうかそもそも謙也は何で知ってるの?あー、蔵か…
『どんなきっかけやとしても、妄想癖はきしょいスわ』
「な…そ、そんな事、光君に言われたくない!」
わざわざ皆から離れて話ってそれなの?どれだけアタシの事貶せば気が済む訳…?
光君は悪くないってフォローしてた自分が馬鹿みたいじゃん!この冷血光!
『ほなアンタが言う理想の王子は何て言うん?』
「間違いなく光君とは違って“辛かったね、君には俺が居るからそんな男早く忘れろ”くらい言ってくれるんじゃないの!」
『…………』
「何よその顔。きしょくて結構です!!自分が聞いてくせに」
どん引きですわー、くらいな怪訝な顔する冷血光に半ば自棄になっちゃって。気を使うからこそ苦手意識してたけどそれも通り越して大嫌いになっちゃいそうなそんな勢い。
『ええんちゃいます?』
「は、何が?」
『そんな男、早よ忘れたら?』
「、え?」
『二次元やなくて三次元で理想の男、早よ見付かったらええですね』
「―――――」
大嫌いになっちゃいそうな勢い、なのに。
肩に手を置いて『応援したるわ、“名前ちゃん”?』なんて耳打ちされたらそれ以上言葉なんか出て来なかった。
光は慰めてくれたの?本当は優しい人…?
(20090606)
←