03.
君の声を聞きたい
好きってそんな単純なものじゃない?
vol.3 overreaction
『浮かん顔やなぁ名前?』
「…そーかな、」
『財前の事は気にしてるん?』
「別に気にしてないもん…」
『嘘吐く時、髪触りながら俯く癖は直ってへんな?』
「…意地悪」
光君に言われたこと、ショックじゃなかったと言えば嘘になる。
アタシが高校生になったばかりの時に仲が良かった2人が居た。アタシと彼女と彼、男女間でも隔たりなく付き合っていけるんだって思ってたけど、やっぱり一緒に居れば居る程アタシは彼が好きになった。
彼女に打ち明けると快く応援してくれて、暫くすると彼から告白してくれて凄く幸せだったんだ。
漫画を読んではヒロインと自分を重ねて有頂天になってみたり、本人からのメールや電話があると興奮して他の事は手が付かなくなったり。
だけどアタシは聞いてしまった。
(そろそろアイツと付き合うのも飽きたんだけど)
(もう少し良いでしょ?アンタが狙ってる子も彼氏居るんだし退屈しのぎだよ)
(そうは言うけど彼氏役するのは友達と違って疲れるんだぜ?)
(だけどあの子単純だから面白いじゃん?未だに遊ばれてるって気付いてないし)
アタシは彼が好きで、彼もアタシを好きで居てくれて、彼女はアタシ達を見守ってくれる。そう思ってたのに所詮2人の玩具でしかなかったの。
哀しくて辛くて切なくて、その日の夜は布団を被ってずっと泣いて、次の日からは学校に行かなくなった。
そんな時にタイミング良く電話をくれたのは蔵で、少しだけ元気になったアタシは二次元の世界にハマって今に至る。二次元なら裏切らないから…。
『皆が皆名前の事知ってる訳ちゃうし、知らん奴からしてみれば財前と同じ解釈するかもしれへん』
「…分かってるってば、財前君が一方的に悪い訳じゃない」
『せやけど俺は名前が悩んだ事も辛い思いした事も、これから頑張ろうとしてる事も全部知ってるで?』
「……………」
『な?』
「なぁに、それ…」
口煩くて説教臭くて面倒臭いけど、今はちょっとだけ蔵が同じ学校で良かったなとか。
「蔵ー?」
『うん?』
「アタシ、頑張ってる?」
『次の恋愛しようとしてたんやし頑張ってるんちゃう?』
「…うん…じゃあ明日からまた頑張るから今日はもう家に帰っ『あかん』」
「…………」
『それとこれとは話が別や。それに今日は1限も授業受けてへんのやで?』
その授業が億劫なのに。
やっぱり蔵は厳しいっていうか煩いっていてうか融通効かないっていうか。
ハァ、なんて溜息吐くと後ろからは別の声。
『何や名前帰りたいん?』
「、謙也!」
『朝練終わった?お疲れさん』
『白石が居らんでもバッチリや!』
『どういう意味やろか?』
いつから居たんだろう謙也と蔵のやり取りを見ては今がチャンス?
忍び足でそろそろとその場を離れようとすると、ガシッと首根っこ掴まれて。
『何処行く気や名前ちゃん?』
「ちょ、ちょっとトイレに…」
『トイレ行くのに鞄は要らへんやろ?場所も分からへんやろうから俺も着いてったるで?』
「…やっぱり遠慮しときます」
『それなら大人しくしとき』
どうやっても蔵の眼は誤魔化せないんだなぁって思うと一気に脱力感。
『名前は何でそない帰りたがるん?』
「何でって言われても…」
謙也には分かんないよ、悪態付きたいのにさっきの顔が浮かんで言葉に詰まる。
“自分の事大事にし”
それが嬉しかったから。
『そらなぁ勉強とかうっざい事いっぱいあるけど学校楽しいで!』
「…そうかもしれないけど」
『家で1人ゆっくりするんもええけど、学校で皆と阿呆な事して笑うんは1人じゃ出来ひんのや、名前も一緒に楽しい事せなあかんやろ?今の時間はずっと続かへんのやから楽しまんと損やで!』
「――――――」
『謙也にしてはまともな事言うたけど臭いな』
『キザな事サラッと言う白石に言われたないわ』
何か、何か…謙也が言う一言一言に過剰反応する自分が居る。
1人じゃないって言ってくれてる気がして、胸がポッと熱くなった。
これって、謙也を意識してるってこと?
(20090602)
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