19.
届かなくても
想いは消えないから祈り続けたい、ありがとうって
vol.19 precept
“そろそろ気付いてもええんちゃう?”
“財前と名前が良い”
謙也が教えてくれた光の気持ち、光が押してくれたアタシの気持ち、アタシに伝えてくれた謙也の気持ち。
上手く整理する事が出来なくて、部室を出た後も下向いてテニスコートの土ばっかり見てた。
『話、してきたん?』
「…蔵、」
『はは、名前の顔見たら聞く必要無かったな』
「………蔵は、知ってたの?」
『知ってるっちゅうか…今までずっと一緒に居ったからなぁ。何となく分かるもんや』
「……………」
地面から蔵の顔へ視線を上げて、誰とも話したくなかったのに話を聞いて欲しくて話が聞きたい。
自分でも意味の分からない感情なのに、背中をポンポンと叩いてくれた蔵は全部理解してくれてるみたいで。普段は口煩いって煩わしく思うのに、こういう時いつも頼りになるのは蔵で、甘えられるのも蔵だったな、って。
「光がね、甘え過ぎって言った…」
『うん』
「だけど謙也に光の事聞くまで全然分かんなかった…」
『うん。財前も後ろ側に回っとったし言う気無かったんやろなぁ』
改めて思ったのは過ごして来た時間の差。
蔵も謙也も光も、お互いの変化にちゃんと気付いてたってこと。アタシだけが何も知らなくて、アタシだけが自分勝手に動いてたんだ。
「蔵、アタシどうしたら良い…?」
『主語が分からへんな?』
「え?」
『名前は2人の気持ち知って揺れたっちゅう事なんか、気持ちは変わらへんけど2人に対してどうしたらええんかっちゅう事なんか…』
どうなん?
その問に対してどう頷いたら良いのかさえ分からなくて。前者を取れば謙也に対してその程度の気持ちだったってことになる。だけどそんな事ない、アタシはちゃんと本気で謙也が好きだった。だからと言って後者を否定するのも気が引けて…今、光に対してアタシは今までに無い特別視する情感がある、それは事実だから。
『…まぁ、名前にとっては急な話やったからな、答えが出んのもしゃーないわ』
「…………」
『よう、考えてみ?』
「……うん」
『せやけど嘘吐いたらあかんで?』
「、嘘?」
『例えば2人の為に両方選ばへんとか、どっちかが好きやけど違う方選ぶとか。それはやったらあかん。自分も苦しいし相手にも失礼やからな?』
「そ、それくらい、分かってる…」
『せやったらええわ』
当然みたいに答えたけど、一瞬肩が上がったのは頭の片隅で図星をつかれたから。
自分はともかく、相手に失礼だって言葉を聞いて厭な意味で心臓がドキドキした。
『名前?』
「、」
『考えろって言うたとこやけど気負いせんでええねんで』
「う、ん?」
『“アタシってモテモテで幸せー”くらいでええんちゃう?そんくらいのが名前っぽいわ』
「…何それ、そんなのアタシ最低じゃん」
『いっつもそんな感じで妄想しとったと思うんやけどちゃうかった?』
「そ、そこまで酷くないし!」
茶化してるようにも見える蔵だけど、頑張れって背中をゆっくり押してくれる姿にこっそり有難うを言った。
(20090820)
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