aty | ナノ


 


 18.



この道の行く末に答えがあるのか、
もしひとつじゃないならどうするのが正しいのか、分からなかった


 vol.18 one's future


「……………」


その後の教室内は散々だった。
散々だって言っても周りの皆は至って普通で謙也に限って、だけど。
授業中は席が離れてるから話したりなんか出来ないけど、休み時間も机に突っ伏して近寄るな、とでも言いたげで。蔵も眼も合わせたら首を振ってそっとしとけっていう顔して。

楽しくて仕方なかった学校は楽しく無かった。寂しい空間に成り下がった。


『名前』

「、蔵」

『そんな顔せんと、部活は楽しくするもんやで?』

「そんなこと言われても…」


この状況でどう楽しんだら良いの?
今朝の朝練では謙也も光も笑ってたのに…今は皆から離れて筋トレしてる。適当な会話をする他の人とは取り巻く空気さえ違う気がして、見てられない。


「あ、」

『うん?』

「―――……」


眼、そらされた…?

今、絶対に光と眼が合ったのに視線、外した…?


『どないしたんや』

「……やっぱり、このままは嫌だ」

『え?』

「光と謙也と話してくる!」

『名前っ、』


光がわざと眼をそらしたことが無性に腹立たしくて、だけど哀しくて。

“もう関わりたくない”

何で急にこんな事になったのか、納得出来ないし嫌だった。


「ひかるっ、」

『……………』

「っ何で…?」


名前を呼んで1回だけこっちを見てくれたけど、直ぐに背中を向けた光は口を開いてくれる気も無さそうに水道の方へ足を進める。


「ちょっと待ってよ、何でアタシの事無視するの!?アタシが何かした?無視するくらい、嫌いになった……?」

『……………』

「ひ、かるが、言ったんじゃん…アタシと謙也のこと、何とかしてくれるって……」


なのに何で?
どうして光は、無かったことみたいにするの?

いっつも教えてくれたじゃん、どうしたら良いかって。謙也の誕生日だって嘘だったけど、謙也が喜ぶから、アタシの為に嘘吐いてくれたじゃん…。


『ハァ…』

「、」

『名前、甘え過ぎ』

「、え?」

『何で俺が好き好んで口挟んでたか、そろそろ気付いてもええんちゃう?』

「……どういう意味…?」

『…俺んとこ来るんなら謙也先輩とこ行け』

「ひかる、」

『謙也先輩、ああ見えて気にしぃやから』

「……………」

『さっさと行かんと修復出来んなるで』

「うん…」

『こっから、上手くいくん見といたるから』

「うん…」


光に背中を押して貰わなきゃ動けないアタシ、それは情けないことなんだろうけど光の存在が嬉しくて有り難かった。


「謙也……」

『、名前…』

「あのね、話があるんだけど…」

『……ええよ』


相変わらず謙也は俯きがちで浮かない顔だけど、静かにラケットを置いて胡坐をかいた。


「光と、何があったのかは聞かないけど仲直り、しないの…?」

『……名前はした方がええと思うん?』

「そりゃ…仲良かったし…」

『そか。せやな、いつまでもウダウダしとったら白石にもどやされそうやしな』

「だったら、」

『せやけど、ちゃんと答えがハッキリするまで無理や』

「……え?」


俯いた謙也が苦笑したと思ったら顔を上げて真っ直ぐアタシを映して。
心臓がドキッと跳ねるのが分かった。
ハッキリって、何をハッキリさせるの…?


『あんな、俺、』

「うん…」

『お、俺……』

「うん…?」

『………あかん!!ちょう来て!』

「へ、ちょっと、謙也?!」

『ええから来て!』


急に立ち上がって部室へと腕を引っ張ってくる謙也に頭はついていけない。
何を言われるんだろって思ったのに何?


「あの、謙也、」

『こんなんこっ恥ずかしくて言えるか…!』

「え、何?」

『早速名前のノート借りんで』

「うん?」


部室に入るなりロッカーに入れてあった鞄を漁り始めて、アタシが今朝あげたノートを引っ張りだして来てはボールペンを走らせる。

未だ理解出来ないこの状況に困惑したままだけど、頭をガリガリ掻いてる姿はいつも謙也っぽくて、少しだけ安心が零れる。


『これ、』

「なに――……」

『お、俺の、気持ち、やねん…』


ボールペンが止まって差し出されたノートには“好き”の2文字が書かれてた。

それは、アタシが好きって解釈したんで良いの…?
嬉しいけど驚きの方が大きくて、嘘じゃないのかってその2文字を眺める。だけど確かに書かれた言葉は嘘じゃなくて夢じゃなくて現実。


「本当に…?」

『こ、ここんな嘘吐かへん!』

「……………」


真っ赤になった謙也を見れば本気かどうか一目瞭然で。
漸く幸せを実感したアタシは上手く声が出てこなくて、謙也が置いたボールペンを手に持った。

(昼休みに言ってくれなかったのは恥ずかしかったから?)

ノートに書くくらい照れてるんだったら、それなら頷ける。マイナス思考でしかなかった自分も笑い飛ばせる。
そう思ったのに、アタシの文字を見た謙也は蕭条な顔付きに一変してノートを綴じた。


『…ちゃうねん』

「違う、の…?」

『名前の気持ちは聞いたけど、返事は保留にしといてくれへん…?』

「、」

『俺の気持ちは今書いた通りやねんけど…財前の事ももう1回ちゃんと考えてから答え出して欲しいねん…』

「ひかる…?」

『せや。財前は名前が好きやから応援してくれとったみたいやけどいつも一緒に居ったんは財前の方やろ?認めたくはないけど、俺は財前の方が……』

「―――――――」


“財前と名前が良い”

アタシはやっと、2人を振り回してたのが自分だって気付いた。



----------------------------

あと1、2話で終わりなのでアンケートの方を〆切たいと思います。
ご協力して下さってる方、有難うございます!残り数日ですがお付き合いして下さると幸いです^^

(20090811)


prevnext



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -