20.
addicted to you
“貴方に耽る”
vol.20 addicted to you
蔵に言われて、蔵と話して、幾分冷静になった頭で考えれば早い話だった。
誰に何を言われたとしてもアタシが好きなのはあの人だけだって、やっと分かった。
『『お疲れ様でした!』』
夕方、まだ明るい空の下で部活が終わると一目散に走った。当たり前のように部室に入ろうとする身体を引き止める為に腕を掴むと大袈裟に驚いた顔。
『名前?』
「謙也、アタシの話、聞いてくれる…?」
『……分かった』
もう答え出たん?そう言いたそうに視線を下に向けたと思うと、部室へと消える光の背中を見た後アタシを映す。
謙也は謙也なりに光の事、光との距離を考えてるってことなんだと思う。
「アタシ、やっぱり謙也が好き…」
まだ知り合って仲良くなって間もないけど、庇ってくれたあの時、怒ってくれたあの時から…アタシはずっと謙也が好きで、謙也の事ばっかり考えて行動してきた。それはこれからも変わらない。
『、財前の事は、ええん?』
「光は…謙也とは別に特別だから」
『そか…』
「うん…」
『せやったら、お、俺と…付き合うてくれる、か…?』
拳を作って俯いた謙也は笑っちゃいそうなくらい真っ赤で可愛くて。だけど格好良い。
「うん。お願いします」
『、』
「あははっ!謙也泣きそう」
『だっ、誰が泣くかっ!』
「えへへ、嬉しいよ」
『――…お、お、俺かて、嬉しいに決まっとるやろ…』
真っ赤な顔のままプイッと外方向いちゃって、結局笑っちゃったけど。謙也の拳に手を重ねると指と指が絡まったから笑ってたアタシは綻ばずに居られなかった。
『あ、』
手を繋いだまま部室に戻ると1番に反応したのは蔵で、アタシと謙也を交互に見ながら口を緩めた。
『なんやなんや、くっついたと思たら途端にイチャイチャしよって』
『い、イチャイチャなんかしてへんやろ!』
「まだまだこれからだよね、謙也?」
『名前も何言うてんねん…!!』
『それより謙也』
『、え?』
『名前に手出した、っちゅうことは覚悟出来とんやろ?』
『は、』
『俺が名前ん事可愛がっとるん知っててのことやからな?』
『ちょ、白石落ち着きて…!』
本当は一緒に喜んでくれてるくせにわざと過保護なとこ出しちゃって、そんな蔵にもウケるけど真に受ける謙也がもっと面白い。
他人事みたいに2人を見てたアタシだけど、その後ろからは眉を下げて幽愁に笑う光が居た。
光…ごめんね、ありがとう。
眼と眼を合わせて心中に浮かべると光は声に出さず口唇を動かした。
(良かったやん)
その一言が嬉しくて、光も祝ってくれるってことが嬉しくて。だから光と話がしたかったのに、
「ひか『ほなお疲れっしたー』」
「…………」
明らかにアタシを避けて部室を出て行く。
何、それ。
アタシはもう光の隣で話しすらさせて貰えないの?謙也と付き合ったら、謙也が好きだったら光と今までの関係では居ちゃ駄目なの?
そんなの嫌だ。
『名前、財前は、』
「蔵うるさいよ」
『、』
「謙也ちょっと来て」
『え、ああ…、』
蔵が言いたい事は分かってる。
光はアタシと謙也の為にあんな態度なんだってことくらい分かってる。
だけど、
「ひかるっ!!」
『…………』
「アタシは、光だって好きなんだからね!!」
『――――っ、』
だけど、今までの関係を崩す為に恋愛したかった訳じゃない。
「謙也はすっごい特別だけど、光だって謙也とは違う特別に変わり無いんだから…!」
「光のせいなんだから…光のせいで謙也の事好きになって、光のせいで謙也と上手くいったんだから光が責任持って見てくれなきゃ駄目なんだもん!」
自分が無茶苦茶ばっかり言ってるのも分かってる。
「アタシは、謙也が居て蔵が居て、光も居なきゃ嫌なんだよ…光が欠けるのは嫌だもん……」
『――――』
誰かの想いが報われたら、誰かの想いが叶わない事だってある。それでもアタシは何も失いたくなんかない。
我儘だって言われても、今この生活から誰が1人欠けても笑えない。楽しく生きていくなんて出来ないから。
だから、離れるなんか言わないで…
『……あほ』
「、ひかる、」
『謙也先輩がフラれたみたいな顔しとるで』
「え、」
『ふ、フラれてへんし!フラれたんはお前やろ財前!』
我に返って謙也を見ると確かに憂愁な顔だった。
「ご、ごめん、謙也…」
『…別にええで。名前がす、好きなんは俺やって分かってるし!せやから俺にも付いて来てって言うたんやろ?』
「謙也……」
改めてぎゅっと指が絡まって、説明なんかしなくとも伝わる思いがちゃんとあるんだ、って。
そういう気持ち、分かる謙也だからアタシに光の事も考えろって猶予をくれたんだと思うと謙也がもっと愛しくなった。
『ほんま阿呆らし…』
「、」
『惚気とるとこ見せる為にわざわざ呼び止めたん?嫌な女』
「ち、ちがっ『嘘』」
『冗談や、ありがと』
「――――」
ポンポン、
昼間と同じ体温がアタシの頭を伝って、やっぱり光の手が心地良い。
『しゃーなし、責任取って一生名前ん事見といたるわ』
「ひかる…」
『その代わり、謙也先輩から俺に乗り換えたくなっても知らへんで?』
「…良く言うよ」
『ほ、ホンマや!!名前はやらへんからな!』
「謙也…」
『謙也先輩ヘタレやし愛想尽かれんとええスねー』
『なんっちゅう事言うねん…!!』
「まぁまぁ、2人がアタシの事好き過ぎるのは分かったから!」
『『調子乗んなや』』
「えへへー」
最後は茶目っ気なんて言ってみたけど、本当はアタシが謙也にも光にも依存性だってこと。
謙也も光も傍に居るからこそ毎日が幸せなんだもん。
ありがとう。
END.
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完結です!
結局落ちは謙也くんになりましたが、どうもフラれる側にスポットを当てたくなる癖は変わりません…
何となくしかネタは浮かんでなくて突発的に始めた連載で、行き当たりばったりな駄文でしたがお付き合いして頂き有難うございました!
沢山の投票も嬉しく励みになりました!
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■落ちアンケート結果(01〜18話集計)
・総票数222146
・忍足謙也/118698票
・財前光/103718票
ご協力・コメント頂き、無事に完結出来た事に感謝いっぱいです。
本当に有難うございました!
(20090825)
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