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 17.



対する気持ちはもつれて
嫋嫋とした景色がやるせなかった


 vol.17 crossing you


光の言葉でご機嫌を取り戻したアタシは勢い良く蔵が居るらしい部室へ駆け込んだ。


「蔵蔵聞いてー!」

『名前、急に入って来んとノックするんが常識やで』

「別に良いじゃん、急に入って困ることでもしてたの?」

『そういう訳ちゃうけどビックリするやろ?』

「本当蔵ってば説教染みてるー…」

『俺が言わな誰が名前の教育してくれんねん…で、何があったん?』


文字がいっぱい並んぶノートを綴じて隣の椅子を引いてくれる。普段あれだけ文句並べといて今更だけど、蔵のこういう面倒見が良いところは嫌いじゃない。いつだってちゃんと話を聞いてくれることは嬉しくて。だから今も支離滅裂な言葉を並べて一部始終を話した。


『…うん、そうやったんか』

「勢いっていうか言っちゃったっていうか」

『一歩前進やな?』

「ハハ、ちょっと謙也と気まずいからやっちゃったって感じだけどね」

『そんな事ない、名前は頑張ったな』

「……………」


頭のてっぺんをポンポン、て撫でるように手を載せる蔵だけど、何でだろう。光の時みたいに泣きたくない。蔵がいつもこんな感じだからか、あの時は感極まってたからか……良く、分かんない。


『それで財前は?』

「、え?」

『財前は何て言うてた?』

「うーん…謙也はヘタレだからって」

『ククッ、確かにな』

「蔵までそんなこと言ったら謙也が可哀想じゃん」

『そんなん言うてさっきのさっきまで俺とデキとるとか何とか言うとった気がすんねんけどなぁ』

「そんなの記憶にありませんー!」


都合良い脳ミソや、笑い声を上げる蔵につられてアタシも笑っちゃう。
光と話して、蔵と話して、何の根拠もないのに謙也と上手くいきそうだって期待する自分。勿論気分良くなったからな訳だけど光が大丈夫って言うなら大丈夫だって、絶対な気がした。
謙也の控え目な顔も、逆に理由か何かがあったんだって、ポジティブに思える。


『せやけど名前、』

「えー?」

『これから先な、どんな時でも自分の気持ちに素直にならなあかんよ』

「、どういう意味?」

『正直に生きてたら幸せになれるっちゅうおまじないみたいなもんや』

「何か良く分かんないけど蔵ってロマンチストだよね」

『男は日々日頃ロマンを求めてんねん』

「へぇー……」


アタシはロマンより恋愛だけを求めたいけど?きっと言わなくても分かってるだろうから口にはしないけど、ロマンについて語りたそうな蔵を制止させるみたく予鈴が鳴って一緒に部室を出た。


『緊張する?』

「そりゃ…教室戻ったら謙也が居るし、」

『うーん…愛娘を嫁に出す父親の気分やな』

「蔵の娘になった覚えないしー!だけど蔵の娘になったら苦労しそうで可哀想…」

『何言うてんねん、めっちゃ愛されて幸せやろ』

「ありがた迷惑って言葉があるんだから」

『名前やってホンマは嬉しいくせに』


自信過剰、そう突っ込みたかったのに教室から聞こえてきた声のせいで叶わなかった。


『謙也先輩、』

『もうええっちゅうねん!』



「、光と謙也揉めてるの…?」

『…みたいやな』

「え、何で…」


珍しく苛々を表にする謙也が居て正直驚いた。謙也が怒るとか、よっぽどな気がする。
それに対して蔵はハァ、と溜息ひとつ溢して呆れてるような憂愁してるような…アタシとは違う顔をしてた。


『何意地になってるんです?』

『うっさいわ、財前も人の事とやかく言う前に自分の心配したらええやろ!』

『…何言うてるんですか』

『っ、俺から見れば名前は財前の方がええねん!名前と財前が―――…、名前、』

「……………」


謙也の言ってる意味が分からなくて。
謙也が何で怒ってて、光が何で鬱陶しそうにしてるのか分からなくて。

アタシには光が良い?
それが謙也の答え?


『謙也、財前、』

『あーええスわ。もう話すことないし教室戻るんで』

『……………』

『名前』

「、」

『悪いけどもう関わりたくない』

「ひかる……?」

『ほな』

『なんやねん…財前の奴…』

「……………」


歯を食い縛って床を見つめる謙也と、冷めた視線を向けて教室を出て行った光、両者を見たアタシは喜怒哀楽の感情以前に頭がついていかなくて茫然自失だった。



(20090708)


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