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 16.



頑張ってる背中を見つめて偉いね
そんな一言だけで強くなれた


 vol.16 never die


「……………」

『……………』

「えと、うん…そういう、ことだから…」


有難う
その後に続く言葉は浮かばなくて、今になって心地悪い羞恥が厭に浮かぶ。逃げる様に教室のドアに向かうと足に鉛がぶら下がってるみたいに重かった。


『名前』

「、ひかる…」


重過ぎる足を前に前に出して廊下に出れば壁にもたれて腕を組んだ光が、いつもより幾分優しい声を出した。
そんな慈しんだ様に呼ぶの、酷い。今はそんなの駄目なのに。泣きたくなるじゃん…


『ようやった』

「な、何それ…呆れてるの?」

『あほ。名前にしたら上出来やって褒めてんねん』

「……………」


ほら、瞼が熱くなったじゃんか。
泣きたくなかったのに、光のせい。


『泣いたら化粧取れてホラーになんで』

「う、うるさい…」

『…………』

「ひか、る、」

『ん?』

「謙也、何も言ってくれなかった…」


有難うとは言われても、それ以上の言葉は無い。昨日見ちゃった告白シーンは困ってるのに必死で一生懸命で。それに対してアタシには眉を下げて小さく笑って、小さく呟く声でたった一言。
それってフラれたってことになるの?


『…あんなん気にする必要ないやろ』

「でも、」

『ただの照れ隠しや。謙也先輩やし』

「、ほんと…?」

『無理、て言われてへんやん』

「うん…」


だったらアタシはどうすればいい?
謙也に答えを催促する?そんなの無理に決まってる。
俯いて蕭条としてると頭にフワッと控え目な体温が乗って、心臓が跳ねるみたく反応する。


「、」

『言うたやろ』

「ひかる…?」

『俺が何とかしたるって』


声にしなくても答えてくれる光が、光じゃないみたいでドキドキする。
だけどさっきまでは謙也の手だった筈なのに頭には別の体温を感じて、


「…謙也に、して欲しい……」


思わず口から出た言葉。
光よりも乱暴でガサツだけど、数分前の体温が恋しい。


『……名前、生意気』

「別に、生意気じゃないもん…」

『謙也先輩なんやヘタレで告白のひとつもまともに出来ひん情けない男やのにソレに劣るって言われたみたいでホンマ不快』

「謙也の悪口言わないでよ、馬鹿」

『……まぁ、それがあの人のええとこやしヘタレやなくなったら逆に気持ち悪いけど』

「…………」


素直じゃない言い方だけど本当は分かってるよって、謙也は良い人だよって、そう言ってくれてる様な光に嬉しくなる。
好きな人のこと、理解して貰えることは幸せなことだし相手が光なら尚更…解って欲しかったから。


「ね、そういえば蔵は?」

『部長なら部室行ったで』

「分かった、報告してくる」

『報告する程でも無いけど』

「ひ、光だって頑張ったって言ってくれたじゃん…!」

『そうやっけ。また妄想ちゃうん』

「酷い…そういうのビックリする…」

『もうええから行けって』


最後には別人の如く悪態ついちゃってさ。さっきまでの優しい優しい光は何処行っちゃったの、っていう。本当、それこそ妄想してた気分。
らしいと言えばこっちの方がらしいけど。
でも、


「光っ」

『まだ何やあるん…』

「ありがと」

『―――――』

「アハハッ、すっごい間抜け面」


優しい光は妄想でも幻想でもないから。
嬉しかったんだよ、光が何とかするって言ってくれて。
捨て台詞みたいに変な顔、そう言ってやると走る間際には“不意をつかれた”とか“ウザイ”とか、そんな事言いたそうな光が見えて笑えた。


『ホンマ…生意気過ぎてしんどいわ…』


それでも光が放った一言は自分の足音に消されて聞こえなかった。


(キツい事言い過ぎや阿呆)



(20090805)


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