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 11.



恋愛とケーキは似てる、
生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが脳裏を感化する


 vol.11 sour sweet


『名前、今日は荷物多いなぁ?』

「当たり前でしょー!多くなるのも仕方ないよね」


通学鞄、ジャージが入った手提げ、後は忘れちゃいけない謙也へプレゼントする文房具とケーキ。
手荷物4つをぶら下げて歩く姿は多分バーゲン帰りのオバチャンみたいなんだろうけど、謙也の誕生日にそんなこと言ってられないもん。これがデートだったら格好も気にしたいとこだけど学校だし、お祝いする気持ちがあれば良いんじゃないかって。


『当たり前って何やあるん?女の子は大変なんやー、とか?』

「蔵ってば!そういうのいいから!」


関西人だからってボケてとぼけるのはいいから、今日はちゃんと謙也の誕生日お祝いしなきゃ駄目じゃん。それとも何?忘れたフリでもしてアタシだけが知ってるっていうシチュエーションを作ってくれる気?
そ、そんなの謙也絶対感動するじゃんか!今まで一緒に生活したきた友達は忘れてるのに、最近知り合ったアタシはちゃんと分かってるだなんて…あーあー、もう今日恋が実っちゃうんじゃないの?


『名前、百面相しとるとこ悪いけど部室行き過ぎやでー』

「え、あ、ごめん考え事してた」


蔵に腕を引っ張られて気付いたらドアから5歩くらい行き過ぎてて、謙也の事になると無我夢中なのね、なんて思いながらドアの向こうに謙也が居ますようにってお祈りした。


『あ、白石、名前、おはようさん』

『おはよ、珍しく謙也も皆揃ってんな』


開いたドアからは望んでた人物が居て、おはようの挨拶より伝えたい言葉が喉を震わせた。


「け、謙也」

『うん?』

「誕生日おめでとう…!」


プレゼントの入った紙袋を突き出して謙也が有難うって喜んでくれるのを期待してたのに、


『……………』


部室の中は乾き切った空気が流れてる。
あれ、何で、嬉し過ぎて言葉が出ないってこと…?


「あの、」

『あ、いや、その、』

「謙也…?」

『名前?』

「く、蔵、何…?」

『今は4月やんな』

「そう、だよ、4月だよ…」

『流石の謙也も言いにくそうやから代弁するけど、謙也の誕生日は3月や』

「あー3月……、え?」

『3月17日やで』


名前が転校してくる前、寧ろ学年1個上がる前に終わったとこや。
そう続ける蔵に頭はかなりの勢いで大混乱。
ちょっと待って、だって確かに光は今日誕生日だって……


『クッ…クックッ…ホンマやってくれるわー』


苦笑する謙也の横では光が手で口を覆って肩を揺らす。何で光が笑う訳?光がそう言ったんでしょ?
“謙也先輩の誕生日やねん”
……まさか、


「光っ!?」

『誰も“今日”やとは言うてへんし』

「何それ!光のせいで勘違いしてるんだから光が否定してくれんのが普通じゃん!」

『そうやって何でもかんでも人のせいにするのってどうかと思うけど』

「どう考えても光のせいじゃん!」


本っ当信じらんない…!
何でかかなくていい恥かいてんの?ケーキまで用意して空回って、アタシただの馬鹿じゃんか…
泣きたいくらい恥ずかしくて、今すぐ逃げたい、そう思ったのに、


『有難う』


手からプレゼント分の重さが抜けていく。


「、」

『財前に騙されたみたいやけど今日俺の誕生日やねん』

「謙也…?」

『今年だけ、俺の誕生日は2回あるんやで。めっちゃ最高やんな!』

「で、でも、」

『3月17日は名前が居てへんかったし、名前に祝って貰えて嬉しいで』

「……………」


普通はさ、誕生日って1年にたった1回しかない貴重で特別なものじゃん。だから勘違いで覚え間違えたり、忘れられたりしたら怒るんでしょ?それだけ特別なものなのに、謙也は笑ってくれるの?


『プレゼント、俺ん為に選んでくれておーきに!』

「……ううん」

『こっちの袋はケーキやんな、この間食べたとこやけど、また一緒に食べてくれるか?』

「だ、だけど!本当にごめんね、誕生日間違えて…」

『何言うてんねん。せやから今日は俺の誕生日やって言うてるやろ!』


嘘に嘘を重ねてくれる謙也が優しくて、格好良くて。謙也と喋る度に好きになって良かったって思わずに居られない。


『白石、朝練の前にケーキ食べてええやろ?』

『まぁしゃーないな』

『よっしゃ!名前、ケーキ切ってくれへん?』

「、アタシが?」

『名前以外居れへんやろ?』

「うん…」


謙也の隣で食べるケーキはやっぱり甘い、そんな事を思ってると向こうで光も笑ってたから甘酸っぱい気がした。



(20090713)


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