aty | ナノ


 


 09.



やっぱり1人より2人、
誰かと過ごす時間が楽しくて好き


 vol.9 pleasant


「え、終わり?」

『せや、先生の話聞いてない証拠やなぁ』


謙也の『可愛い』がアタシの頭で何度も何度もこだまして、少し離れた席に座ってる謙也をチラッと見れば欠伸したりシャーペン転がしたり回したり、くるくる変わる表情と行動が可愛すぎて堪らない!なんて思ってた5限。

チャイムが鳴って授業が終わると周りは帰り支度を始める。あれ、次の授業はって疑問視してると蔵の口から出た言葉は『今日は地域行事で学校使うから授業終わりや』だとか。
いつ先生そんな事言った?


「じゃあ部活は?」

『残念ながら休みやで』

「そ、そうなんだ」


謙也のお陰で部活も頑張るって思ってたのに先行き悪くない?


『白石、名前、』

「、」

『どないしたんや謙也』


せっかくアタシがヤル気満々なのにツイてないなーなんて鞄を持ち上げた途端、後ろには謙也。もしかしてもしかして、このタイミングで声掛けて来たってことは『一緒に帰ろう』若しくは『遊びに行こう』っていうお誘いなんじゃないの?
そんなの行くに決まってんじゃん!超絶期待して謙也を見つめるアタシ。


『宿題て数Uの7ページだけやった?』

『せやで、謙也にしては珍しく覚えてたんや』

『7ページか9ページやったかうる覚えやってんけどな』

『忘れずにやってくるんやで』

『分かっとるわ!ほな』

『また明日な』


……あれ?それだけ?
普通、漫画とか小説だったらベタな感じに誘って貰える筈なのに何で?
宿題の話だけで終わりなの?超ショック…!だったらアタシから誘うしかないよね、そうだよね。


「け、謙也!」

『うん?』

「あの、えと、その…」

『なんや?』

「ば、ばばばバイバイ…」


アタシも所詮ヘタレだってこと。
だってアタシから誘うなんか恥ずかしくてしょうがない。いいの別に…アタシも謙也に並んでヘタレの3文字背負って生きていくしお揃いとか最高だし…
かなり凹たれたアタシだったけど、


『うん、また明日な名前!』

「……………」


金色をフワフワ揺らしながら手を振られると、凹んでなんかいらなくて。
また明日、その一言だけで明日からも頑張れる。謙也に会いたいから学校に行きたいって思える。


『名前ー?顔赤いで?』

「、う、うるさいよ蔵!」

『はいはい悪かった悪かった、ほな俺も用事あるから今日は送ってやれへんけど気を付けて帰るんやで』

「うん」

『帰ったらちゃんとメール入れるんも忘れたらあかんよ』

「…めんどくさ」

『うん?』

「な、何でもないってば!」


何であんな地獄耳なのか分かんないけどやっぱり蔵に反抗するもんじゃない。後が怖いし、笑ってるくせに寒気がするあの感じ、本当やだ。


「アタシも早く帰ろ、」


特別する事がないし帰って小説でも読もうかなって教室を出た瞬間、ポケットで携帯が振動する。


「、知らない番号?」


登録データに無いらしい番号だけの着信表示に出るべきか出ないべきか悩んで。
もしかすると登録し忘れただけかもしれない、躊躇いがちに通話ボタンを押す。


「もしもし?」

《あー俺俺》

「……俺俺詐欺なら遠慮します」

《ふざけんな》


声を聞いただけでも分かるダルそうに喋る相手に敢えて嫌味を交えてみて。


「何で光がアタシの番号知ってるの?」

《超能力》

「どっちがふざけてんの」


光の冗談に失笑しながら上履きから外履きに変えて、携帯を耳に当てたまま家へ向かう。
暇だからくだらない冗談にも付き合ってあげてるけどもし謙也と一緒だったら即電源ボタンを押してたと思う。


《部長居る?》

「先に帰っちゃったけど」

《謙也先輩は?》

「帰ったよ。っていうか蔵と謙也に用事ならアタシに電話するんじゃなくて本人にすればいいのにー」

《そういう意味ちゃうわ。ほな誰も居らへんのやな?》

「何それ、暇人だとか言いたいの?」

《暇人言うたな?暇やな?暇やねんな?》

「え、」

《今からXXデパートや》

「は?」

《ええから来て》


何なのこの一方的な電話は…意味分かんないし急過ぎるし強引だし付いていけない。
だけど文句ばっかり言いながら家に帰って鞄を放り投げて自転車の鍵を取って急ぐアタシも何?
違うもん、暇だったから仕方なくだし。言い訳を並べまくって待ち合わせのデパート入り口前までダッシュでペダルを漕いだ。


『あ、』

「ひ、暇だったから!暇だから仕方なく光に付き合ってあげるだけなんだからね!感謝してよ」

『…せやな』

「、」


駐輪場に自転車を停めて急いで来たなんて素振りを見せない様に、代わりに悪態付くアタシ。
だけど光はいつもより10倍くらい眼が笑ってて一瞬心臓が跳ねた。
何で?可愛くないことしか言ってないのに何でそんなに笑うの?明日は台風でも来るんじゃないかって、自動ドアに差し掛かると、


「!」


綺麗に磨かれたガラス張りの自動ドアに映る自分に驚愕した。
髪はぐちゃぐちゃ、おでこ全開、ライナーさえも少し落ちちゃって間抜けったらありゃしない。
やばい、急いで来たのバレバレじゃん!


「ひかる、」

『なん?』

「わ、笑いたきゃ笑えばいいじゃん…!」

『えー?暇やったから渋々付き合うてくれたんやろ?』

「その含み笑い、ムカつく…」

『俺は髪が乱れようが息切れしようが気にせんけど?』

「…意地悪」


クックッ、声に出さず息だけ漏らして肩を揺らす光はやっぱり分かってて。馬鹿にされてるのと変わらないその態度が腹立たしい筈なのに、何なのコレ。ちょっとだけ楽しいじゃんか。

今日のアタシは暇過ぎて変なんだ、そうなんだ。



END.

(20090630)


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