羨む、
自分もそのようになりたいと思う。
calf love
story.08 be equal
キョットーンと呆気に取られた様な顔は、蔵にしては間抜けだった。
「お願い!今日早く部活終わって!」
『、どないしたんや急に』
「大事な用事があるのー」
『ほな先に帰る?』
「えー…蔵も一緒に来て欲しい…」
うーん、一変して困った顔を見せる蔵だけどアタシの頭を一撫でして折れたみたいに笑う。
『分かった、早めっちゅうのは無理やけど延長せんと予定通り7時きっちりで終わらそか』
「本当?」
『うん。それでええ?』
「早く着替えて早く学校出たら大丈夫!」
『ほなそうしよか。せやけど何処に行くん?』
「それは行くまで秘密ー」
『秘密にされたら気になるんやけど?』
「うーん、兎に角良い事!」
『良い事やったら楽しみにしとくわ』
約束もこぎつけたし、後2時間くらいすればアタシは光とお揃いのリングを付けられるんだ。
最近買い物を我慢してた分余計に楽しみで、それが光と同じだとかもっともっと嬉しい。
「くーら!早く早く!」
『名前、そない忙がんでもええやろ?』
「駄目だよお店閉まっちゃう!」
『店?』
「あ、ココだよココ!」
部活も終わって息つく暇も与えずに蔵を引っ張って。訳も分からずに連れて来られた店に入ると、流石は蔵と言うべきか、納得した顔を見せる。
『財前が付けとるリングでも買うん?』
「大正解!」
『それなら俺やなくて財前と一緒に来たら良かったんちゃう?』
「ひ、光ととか恥ずかしいじゃん…ペアにしてくれるって言ってくれただけで十分だもん」
『せやけどどのデザインか分かるん?』
「あ、」
しまった。
光が付けてたのはシンプルだったから直ぐ分かるって思い込んでたけど。いざショーケースに並べられた指輪を前にすればどれだか分かんない。ちゃんと見せて貰ってくるべきだった。
「どうしよう蔵…」
『財前に電話でもして聞いたら?』
「でで電話なんか、出来ない、」
『ほなよう思い出し?』
「うん…」
『俺ちょっとトイレ行って来るわ、その間に見つけ出すんやで』
「分かった…」
流石の蔵でもどのデザインだか分かんないってこと?
そうだよね、派手なモノならともかく至って普通の指輪なんか分かる訳ない。
うーん…どれだろ…
多分コレかコレかコレ、だと思うんだけど。それでも3分の1じゃん?幾ら殆ど変わらないなんて言っても買うからにはちゃんと同じやつがいい。
どうしよう、やっぱり光に電話するべきなのかな、そう思った瞬間ポケットから着信を告げるアタシの携帯。
「もしもし、蔵ー?」
《名前?》
「うん」
《ホンマ申し訳無いねんけど用事出来てしもてん》
「え?」
《直ぐ家に帰らなあかんのや…堪忍な?》
「嘘!本当に?」
《うん、今度また埋め合わせするから》
「…しょうがないよね、分かった」
本当は1人じゃ嫌だけど今日は蔵に無理ばっかり言ったんだもん、用事も何とか断ってだなんて我儘ばっかり言えない。
ここはもう女の勘ってやつを駆使してとっとと買って帰ろうと、真ん中の指輪を選んだ途端、後ろから声が重なった。
「あの、『コレ下さい』」
『はい有難うございます』
「、」
『一番右の内側に石が入ったやつが正解ですわ』
「ひかる…?」
『違うの買ってどないするん?』
何で光が居るの?
嬉しいのに、ビックリの方が勝ってる。何で、何で、そればっかり。
「アタシが迷うの分かってたの?光凄い…」
『はー、凄いスね』
「蔵もね、用事で帰っちゃってね、どうしようかって悩んでて…」
『そうですか』
「だから、光が来てくれて良かった…」
『…うん』
蔵みたいにニッコリ笑ってくれる訳じゃないけど、控え目に笑う光がめちゃくちゃ格好良くて。
『あの、お会計は…』
『俺が出します』
「だ、ダメだよアタシが出す!」
『ええスわこれくら「ダメダメ、絶対駄目!!」』
眉を寄せる光を押し退けて店員さんに諭吉を突き渡す。
アタシが一方的に欲しいって言ったんだから光に払って貰う訳にはいかないでしょ、光も部活してるんだからバイト出来ないだろうし。アタシもそんなに余裕ある訳じゃないけど最近のお小遣い使ってなかったから全然大丈夫。
光が買ってくれるって言ってくれた気持ちだけで本当に幸せだから。
『…強情スね』
「え?」
『何でも無いですわ』
「うん?」
ボソッと呟いた声は聞こえなかったけど、早速嵌めた指輪が愛しくて仕方ない。
光の小指と自分の小指を交互に見て、お揃いって実感すると自然的に口角は上がってく。少しは光と近付けた?
『これなら初めから俺が一緒に行けば良かったスね』
「あはは、蔵にも言われた」
『…名前先輩は俺にして欲しい事無いんです?部長やなくて』
「そ、そんなの無いよ!今日来てくれただけで本当に十分、」
『……………』
「ひかる…?」
『せやから俺は、部長が羨ましいんかもしれへん』
「、」
『送りますわ』
アタシは光と過ごす日が増えればそれだけで良くて幸せで、それ以上光に何かを求めるのは贅沢だと思ってた。
だけど光は蔵が羨ましい?
自信過剰だと言われてもそれはアタシを熱くさせるのに過ぎた言葉だったの。
END.
(20090608)
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