甘言、
相手の気をひくための相手の喜ぶようなことば。
calf love
story.09 confession
あの人の前では格好付けたくて仕方なくていつも気に掛けてたのに、思い返すと全然格好良えとこなんやなくて「部長が羨ましい」っちゅう発言もホンマにどうかと思う。
ただ一時の気紛れだけで付けてたピンキーリングも“お揃い”になった途端外せれへんくて、学校に居る時も家に帰ってからも風呂入ってる時さえ身に付けてたのに…
あんなにキラキラしてたシルバーも今じゃ荒んでしもて、コレにすら別れを告げられてる様なそんな気分。
「ずっと付けてたら痛むんも当然やけど…」
声にならん息だけで吐いた言葉は虚無過ぎて虚しかった。
あれ以来リングを付けてるあの人は俺のもんやって思えたのに。
『見て見てー蔵も謙也も!』
『昨日ちゃんと買えたん?』
『うん!』
『何やそれ、ただの指輪やん』
『ただの、じゃないし!光とお揃いだもん』
『お、お揃いてペアリングっちゅう事!?何やねんいつの間にそんな仲になったん!?』
朝練の為に部室に行くと外まで聞こえてきた会話が全身痒くなりそうで。
部長や謙也先輩に見せびらかすほど嬉しかった、そういうことやと思うほど擽ったくて痒い。
「はよーございます」
『あ、光おはよう!』
『財前、今お揃いの指輪の話してたんや。名前と仲ええなぁ?』
「……………」
外でずっと立っとく趣味もないし躊躇いながらもドアを開けてみたけど。
部長が憎々しいのは気のせいやない。先輩の手前、何も知らんっちゅう顔しとんかもしれへんけど昨日電話掛けてきたんはアンタやろ?
『名前も財前とペアやペアやって浮かれてるで?』
『く、蔵!そんな風に言わないでよ、恥ずかしいじゃん…』
『ええやろ、ホンマの事やし』
いけしゃあしゃあ、正にその通りを演じる部長が腹立つ以上に尊敬してしまいそうや。
昨日、名前先輩は部長を誘ってリングを買いに行った筈やった。せやけど突然の着信は部長で(何で俺の番号知ってんねん)用件は『名前がどの指輪か分からへんらしいから行ってやってくれへんかな』っちゅうこと。
結局は部長に根回しして貰たみたいな気分で悔しいし、名前先輩が俺に頼ってくれへんのも格好悪い気がした。
『何やお前等だけで盛り上がっとるけど付き合うてんなら何で俺に言うてくれへんかったん!いつからやねん!』
『つ、つ、付き合うとか何言っちゃってんの謙也!』
『え?せやけどペアリング言うたら付き合うとる奴が付けるもんやろ?』
『アタシ達はそんな関係じゃないもん、ね、蔵?』
『何で俺に振るん?相手間違うてるやろ、なぁ財前?』
やっぱり、名前先輩の第一声は部長なんや。
「…俺から見れば部長のがソレっぽいですわ」
『え、』
『そうなんや、ちゃうんか。まぁ白石と名前は馬鹿かっちゅうくらい仲ええしな』
謙也先輩も言う様に第三者から見てもそうやし、正直な事やとしてもハッキリ否定した名前先輩にも少し頭に来た。
実際、名前先輩が俺に少なかれ好意を持ってくれとるんは分かってるけど嫌味のひとつくらい言うたらな気が済まん程、俺はガキやった。
『うーん、俺等はそういうんちゃうねんけどなぁ…』
『そ、そうだよ謙也!何でそんな事言うの!』
『別に変な事言うてへんやん!仲がええて言うだけやろ!』
「…………」
もうこの場に居るんも阿呆らしくなって、苛々が募ってこれ以上自棄になる前に俺も頭冷やそうとドアノブに手を掛けた時やった。
控えめに掴まれたのは腕。
「……………」
『光、違う、から』
「違うて?」
『アタシ、蔵と仲良いけど…だけど謙也とも仲良くしてるし、好きとかじゃないから…』
「その話はええから」
『ち、違うの!』
「え?」
『アタシ、光と居ると緊張してドキドキするけど…蔵に光の話するとね、嬉しくてドキドキするの…』
「―――――」
流石にそんなこと言われると黙ってられへんかった。
嫌味に返ってくる言葉が甘言とか先輩もどうかしとるんちゃう?とか、そんな事思てもそれに乗る俺もホンマどうかしとる。
「名前先輩」
『は、はい』
「今日から俺の彼女になったらええんちゃいます?」
『ひかる……?』
「部長も謙也先輩も、そういう事なんで宜しく」
今日、俺と先輩は特別な関係になった。
END.
(20090612)
←