calf love | ナノ


 


 07.



同じ、
「同じ…ということをするなら」の意。そのもの、同一である。


calf love
story.07 near = distant


「……………」


トイレから教室に戻った後、直ぐに机に突っ伏していつの間にか寝てしもたらしい俺は夢を見た。
夢の中でもあの人が居って、思い出ばっかりに縋る俺はホンマにどうしようも無いダサい男なんやと思う。
それでも、どれだけ滑稽やとしても俺は……。

あの人の首からぶら下がるリング、ジャージに隠れる事なく光りを反射させるもんやから嫌でも眼について。
自分で買ったもんならわざわざチェーンに通すなんやせんと指に嵌めるやろうし、パッと見だけで女にはブカブカやと分かる大きさにモヤモヤと苛々が沸き上がった。


『それって嫉妬、だよね?』

「―――――」

『そう、だよね…?』


せやのに期待した眼で見てくるから、正論である“嫉妬”っちゅう言葉に面白可笑しくなって息が洩れた。


『な、何で笑うの!』

「別に何でも無いスわ」

『えー…』


期待の次は、笑うだけの俺に不満そうな顔してうなだれて。
今更かもしれへんけど、あからさまに嫉妬を認めるのも格好悪い。せやけど名前先輩が綻んでくれるんなら。


「ほな、そういう事でええスよ」

『何か投げ遣りー…』

「あかんかった?」

『別に良いけど…』

「せやったら誰から貰ったんか教えて下さい」

『えっとね、蔵から貰ったの』


その名前を出した途端糸目で口角を上げる。対して俺は予期出来た相手にまた苛々が再発する。


『これね、お願いが叶う指輪らしいよ?』

「…叶えたい事あるんです?」

『あるけど秘密ー』

「フーン…」

『でも光も、』

「はい?」


何のおまじないやか知らんけど、身に付けるだけで願い事が叶うとか阿呆らしい。部長はどんなつもりで名前先輩にリングを渡したんやろうか。
そればっかりぐるぐる巡らせてると名前先輩は『小指……』言いながら俺の左手に視線を落とした。
俺の左手には細いピンキーリングがあるけど、何が言いたいんか。まさか俺と同じ情感やとは言わへんですよね?


『もしかして、ペアだったりするの…?』

「まさか、ペアリングなら薬指ちゃいます?」

『じゃあ、ただ付けてるだけ?』


俺のモヤモヤを吹き飛ばしてしまいそうになる程、憂愁な顔は印象的でずっと見ときたい、とか。
小指や中指に付けるリングなんや5個のピアスと一緒やのに単純な人。


「意味無いもんですわ」

『……本当?』

「うん本当」

『アタシも、付けたい』

「え?」

『光が付けてるならアタシも付けたい…』


どこまでも単純思考な先輩に呆気に取られてる筈やのに嬉々とする自分はもっと単純っちゅう事やと思います?


「何ならペアにでもします?」

『い、良いの?』

「ええですよ」

『じゃあ同じの買う!何処で買ったの?』

「駅前ビルの××」

『有難う!絶対買うから!』

「はいはい」

『ちょっと蔵んとこ行って来る!』

「、部長?」

『部活早めに終わらせて貰えないか頼むの!』

「ククッ、部長が聞いてくれるとええけどなぁ?」

『た、多分大丈夫、だと思う…』


たかだか私事の為に部活を早々に終わらせるなんや無理やろ?そうは思ってもホンマにお願いしに行く名前先輩を見ると口を手で覆わずには居れへんかったんや。
せやけど、手を合わせて部長を誘う姿は近付いた様で遠い距離なんやと実感した。


END.

(20090603)


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