calf love | ナノ


 


 05.



嬉々、
喜びに心がはずむようす。


calf love
story.05 pleasant


初めて届いたメールはたった一言だけで特別区になる様なもんやなかったけど、それでも俺にとっては特別で、名前先輩にも他の人にも誰にも言えへんけど今でも保護して削除出来ひん。


「……あ、」


トイレで顔を洗った後、教室で1限目の準備をしようかと思うと部室に置きっぱなしにしてた教科書を取ってくるん忘れて。
今更取りに行くも面倒やしもうええわって諦めるけど。


「ホンマ格好悪…」


先輩から告げられた一言が利き過ぎてる。持って来なあかんものまで頭から消し飛ぶくらい動揺して焦燥感いっぱいで、格好悪いんもええとこ。
せやけど俺は、初めて格好良いて言うてくれた名前先輩の前では“格好良い男”しか見せたくなかったんや。
あの時もそう。


『財前ー!』

「何です?」

『女の子、呼んでるで』

「はぁ…」


ラケットを持った謙也先輩が視線でテニスコート入口を指すと、見たこともない女が気後れしながら立ってた。


『ざ、財前君…付き合って欲しいねんけど…』

「…悪いけど、」

『もしかして好きな人とか居てる…?』

「まぁ」

『そ、か…ごめんね急に』


安易に想像出来た会話に嬉しいとかそんな感情も無い。俺が欲しいのは見ず知らずのアンタやない、名前先輩やから。
掻痒して溢れそうな溜息を堪えてテニスコートへ戻ると名前先輩は部長にくっついてた。相変わらずな光景に折角堪えた溜息も吐き出そうになって。
ハァ、大きく吐いてまた酸素を取り込むと、聞こえてきた声に一瞬瞠若する。


『光ってモテるんだね…やだショック』

『せやなぁ、男前やしなぁ』

『えー!オッケーしちゃったらどうしよう…!』

『っちゅうか既に彼女居る可能性は考えへんの?』

『謙也はいっつも煩い!』


つまり、先輩は俺が呼び出し受けた事が嫌で妬いてくれとるっちゅう事やろ?
盗み聞きなんや趣味悪いけど、聞こえてきた会話に心底愛しくなる。


『せやで謙也、財前は彼女居るなんや言うてへんかったんやし』

『せやけど可能性はなきにしもあらずやん!』

『謙也の馬鹿!そんな事ばっか言わないでよ!』

「ホンマ、妄想だけで喋るん止めて欲しいですわ」

『ひ、ひかる…!』


謙也先輩、要らん事言うんはその辺で終いにして貰えます?
部長も嫌味ったらしく口角上げる暇あるんなら名前先輩から離れて欲しいんやけど?


『い、今の、聞いてたの…!?』


バッチリ、聞こえましたわ。
先輩が俺ん事どんだけ気にしとんか分かった。せやけどな。


「…名前先輩、」

『は、はいっ!』

「変な事吹き込まるくらいなら俺に聞いて下さい」

『、え?』

「聞きたい事があるなら直接聞いたらええやろ?第三者の曖昧な返答やなくて、ちゃんとホンマの事答えますから」

『…………』

「聞きたい事、無いん?」


せやけど、素直に“嬉しい”なんや、偶々聞こえた言葉にどうこう言うんは格好悪いと思うから言えへん。


『…光は、彼女居るの…?』


それでも名前先輩が俺と違て素直に口にするもんやから、


「居りませんよ」


笑わずには居れへんかったんや。



END.

(20090526)


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