焦がれる、
いちずに恋い慕う、思い望む。
calf love
story.04 wait
赤外線通信で携帯番号とアドレスを交換したあの時、アタシは世界が虹色に見えて自然と溢れる笑いが究極に心地好かった。
「うーん…うーん…」
『何や?腹でも壊したんか?』
「ちっがうよ謙也の馬鹿ちん!」
『別に馬鹿とか言わんでええやろ!』
唸り声は悩み事って決まってんのに乙女心が分かって無い謙也に荘厳の顔を向けると、勘の良い蔵は携帯を持つアタシを見て理解した顔で笑う。
『名前ちゃんは誰からの連絡待ってるんや?』
「やだー!やっぱり蔵にはバレちゃう?」
『昨日財前と2人で何してたんやろなぁ?』
「やだやだ、恥ずかしいってば!」
『え、なんやねん!2人だけで話進めんなや!』
ニンマリ笑う蔵に置いてきぼりを食らった様な謙也。
とにかく昨日の幸せを誰かに自慢したくて。だって好きな人の携帯番号聞いちゃったんだもん、浮かれるに決まってる。
「あのね、光と番号交換したの!」
『財前と?』
「そうだよ!羨ましいでしょ謙也くーん!」
『別に俺は財前の番号に興味無いで』
「うん?何ですって?」
『や、め、めっちゃ羨ましいわ!なぁ白石!』
『うーん…それは何となく分かったけど、名前ちゃん?』
「うん?」
『いつから“光”になったんや?』
「え、」
『昨日何があったんか話して貰おかー?全部吐きなさい』
「あは、あははは」
さすが聖書蔵ノ介。
少しの変化も見落とさない鋭さはピカイチっていうか?
昨日の間抜け過ぎる話をするのも気が引けるけど、蔵には何でも話してきたしこれからも話しておきたいって思うアタシは好きな人とは別に蔵が特別な存在なんだ。
「…という訳なんですがー…」
『フーン?何やいつの間にかええ感じやんなぁ』
「ええ感じとか照れるー」
『っちゅうか名前って財前ん事好きやったん!?初耳やで!』
「言ってなかったっけ?」
『言わへんでも名前見てたら気付く思うねんけど…謙也は鈍いからなぁ』
『地味に失礼やで白石』
全部話して、昨日を思い出して、蔵にも『ええ感じ』だとか言われてルンルン気分なアタシだけど悩みの種はその後だった。
「でもね、光からメール来ないんだよ」
『アドレスも交換したんちゃう?』
「したに決まってんじゃん!」
『ほな財前はメールするんが面倒臭いっちゅうことやな!ドンマイやで名前!、っいだ!何すんねん白石っ!』
『謙也は要らん事言わんでええの』
冷たい冷たい謙也の言葉にアタシの顔が歪むと、蔵は謙也の頭を叩いてくれた。
乙女心が分かる男と分からない男はこうも違うのね…なんて他人事に思ってる場合じゃなくて。
「でも謙也の言う通りかも…気使って教えてくれただけかもしれないよね…」
『名前、凹たれとる場合ちゃうやろ?』
「…でも、」
『そら女の子からしたら男からメール送って欲しいとこやけど、名前は財前が好きやねんから自分から頑張らなあかんのちゃう?』
「えー…返事来なかったらショックだもん…」
『返事は来るって。名前は頑張れる子やろ?メールしたい時に送ってみ?』
「…うん分かった」
『偉い偉い。頑張る名前にはええ物あげるわ』
「、ええ物?」
蔵が『返事は来る』って言ったらそれは絶対な気がして、朝練の時は相変わらずな顔してた光を思うと不安はあるけどアタシからメール送ってみようかなって。
そう思うと蔵は制服の下に隠れたネックレスを外してアタシの首に付けてくれる。
「ネックトップ、指輪?」
『せや。これな、気に入ってたやつやねんけど1回無くしてしもて買い直したんや。せやのに買った後部屋から出て来て2個になってん』
「アタシが貰っていいの?」
『この指輪はな、お願い事が叶うんやって』
「本当に?」
『うん。名前の指にはブカブカで合わへんから首からぶら下げとき?せやから頑張るんやで?』
「うん!」
『白石はホンマ名前に甘いんやから』
『ハハッ、ええ事やろ?』
「謙也嫉妬?」
『阿呆か!!』
蔵が応援してくれる、なんだかんだ言って謙也も頑張りやって髪の毛弄ってくれて、アタシは携帯の新規メール画面を開けた。
何て打とうか迷うけど…何かすっごい緊張するけど…生唾飲んで親指を動かして文字を打つ。
(何してるの?)
同じ敷地に居て、もうすぐ授業始まるのに何するも無いけど他の言葉は浮かんで来なくて。
メールの返事が来ますようにって、早速指輪を握って願掛けした。
「あ、」
そしたら本当にメールが来たから感動しちゃって、メール選択ボタンを連打。
(いつメール送ってくれるんか思て携帯弄ってました。っちゅうかアドレス聞いといて遅すぎ)
光もアタシのメール待ってたの?
その言葉が嬉しくて嬉しくて、アタシはまた綻んじゃう。
幸せの2乗って何て言うんだろ?やっぱり世界は虹色?
昨日より今日、アタシはもっと光を好きになる。
END.
(20090522)
←