ありがとう、
感謝の気持ちを表す語。
calf love
story.02 contents
アタシが光に惹かれたのはもう1年前のこと。
満開の桜が少しずつ散っていく中、テニスコートに現れた。
『名前、初対面の人にまで格好良い格好良いて懐いてどないすんねん。相手が1年生やったからええけど、誰彼構わず言うてたら危ないねんで』
「だって本当に格好良いんだもーん」
『こら。俺が言うとる意味分かってへんの?』
「分かってるってば、大丈夫ー蔵も格好良いって思ってるから!」
『ストライクゾーン広すぎやで?』
小言を交える蔵の言葉は最もなのかもしれないけど大概耳タコだから軽くスルー。
適当に相槌しながら振り返れば、テニスコート脇に立ってる光君に見惚れちゃう。やっぱり格好良いものは格好良いんだもん。それが素直な気持ちなのに嘘吐くなんて出来ないでしょう?
それに蔵が格好良いって言ったのも本当。蔵だってユウ君だって謙也だってオサムちゃんだって皆格好良い。ミーハーだとか何言われたってこの性格は変わらないんだから。
「はー…何か今日は一段としんどかった気がする…」
『せやろ、名前も思うねんな?』
スコア付けから始まって球拾い、ドリンク作り、洗濯、雑用諸々。とにかく今日はいつもよりハイペースで仕事を言い付けられて疲れた、なんて愚痴を溢してると隣で謙也もウンウン頷いてた。
『今日の白石、1年が見てるからって無駄に張り切っててんな』
「あー、そういうこと?」
新入生の手前、ダラダラしたとこは見せないっていう蔵の思惑?
普段も十分頑張ってるのにそこまでしなくても。もしかしたら厳しそうで嫌だーって入部する子減るかもしれないのに。あ、既に入部届け貰ってたから大丈夫だってこと?
『謙也、誰が無駄に張り切ってるて?』
『ししし白石…!!』
『名前もそういうことってどういうことや?』
「べ、別に何でも無いもん!」
蔵の陰口なんて言うもんじゃない。地獄耳な蔵はどこからともなくやって来て背筋が凍りそうな笑顔を向けてくる。
『そうかー、謙也は明日特別メニュー組んで欲しいやんな?』
『特別とか要らへんて!普通でええねん白石…!』
『名前も部室掃除したいん?』
「やややだやだ!絶対やらない!」
『ほな無駄口叩かんとさっさと片付けしなさい!』
『「は、はいっ!!」』
そんなに怒らなくてもいいのに、文句言いたいけど反抗するもんじゃない。何倍で返ってくるかも分からないから大人しく返事して、蔵の剣幕に2人して怯えながら散らばったボールを拾いに行くと、
「…あれ、ひかる、君?」
『お疲れス』
「何してるの?」
1人制服のまま屈んだ人が居て。
他の1年生は皆帰ったって言うのにまだ残ってたの?
『何って、ボール拾い。見て分かりません?』
「いや、そうかもしれないけど…」
ひょいひょい集めたボールは既にカゴひとついっぱいだった。
今日1年生は見学なのに何で…?
『もう入部届け出したんやから片付けするん常識やろ』
「…………」
『片付けも出来ひんような奴、下手くそや思いますよ』
面倒臭いに変わりはないけど。
そう言った光君が最高に格好良いと思った。顔とか見てくれじゃなくて、中身が格好良いって。
「有難う」
『は?何で先輩がお礼言うんです?』
「だって嬉しいんだもん」
『…よう分かりませんわ』
「いーよ分かんなくても」
『そうですか』
「有難う光君!」
『どーいたしまして…』
容姿も性格も格好良い光君に有難うって言った訳、それはアタシに“好き”をくれたから。
この日、アタシは初めて好きな人が出来ました。
END.
(20090515)
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