calf love | ナノ


 


 01.



好き、

ある物・人に心を惹かれること。


 calf love
 story.01 suddenly


別れよう

別れは突然やった。昨日普段通り学校で会って一緒に帰って、寝て起きて。朝練が始まる前に『ちょっと、』て畏まって言うもんやから何やろうとは思たけど、まさか名前先輩に別れ話をされるなんや思わへんかった。


『理由、要る?』

「……別に」

『…だよね、光はそう言うと思った』


よう分かってますね、そんな事言う余裕なんかない。
理由を聞かへんのは、聞いたところで状況は変わらへんて名前先輩の眼が言うてたし、理由を聞いてしもたらホンマに“終わり”を認めなあかんっちゅう気がしたから。聞きたくなかった。


『ねぇ光、』

「…何です?」

『好きだよ』

「…………」


一言残して俺に背を向ける先輩は太陽と重なってキラキラしてた。頭に来そうなくらい綺麗過ぎて険峻で、背中を追い掛けることが出来ひん俺は情けなく悄然するだけ。

それもそうやろ?“好きやった”やなくて“好きや”て言うたんやで?
普通別れる時にそんな事言わへん。最後迄ズルい人。名前先輩がまだ俺ん事が好きなら、俺も忘れられる筈無いやろ?そこまで分かってます?


「…好き、」


俺も好きです。
言葉にすると想い出が巡り巡って寂しくなった。
朝練の間も名前先輩は“普通”で、違うと言えば俺と眼を合わせてくれへんかったっちゅうこと。


『ほな、また放課後』


部長の声で解散すれば、適当な人数で鞄抱えて校舎に向かう。
その中に俺と名前先輩も居ったけど、いつもなら繋がれた手が今は乾いた空気が触れるだけ。
熱いくらい暖かかったのに、感じる体温が無くて絡めるものが無い虚しい左手を見て漸く“終わり”を理解した。


「……………」


初めて会うた時、初めて繋いだ手。
俺の始まりはあの日やったから、あの人の手がホンマに好きやったのに…


 □


高校の入学式が終わってテニスコートへ行くと、何人もの1年が入部届けを持って並んでた。


『俺に入部届け提出したら今日は好きな様に見学してええから』


2年が部長やなんてここのテニス部は大丈夫なん?率直な感想はそれやったけど、1つしか変わらん部長は誰より凛としてて当意即妙で。


『財前君言うんやな、部長の白石や』

『…どーも』


右手で入部届けを受け取って左手で握手をする部長、パッと見綺麗なその手は握手するとゴツゴツしててラケットを握り続けて来た過去が直ぐに分かる。多分、俺が目指すものはこの人なんやろうと直感で思った。
そんな絶妙な雰囲気を打ち壊したのが先輩。


『あー!!蔵ズルい!!』

『なんやねん名前』


途端、凛とした部長の顔は我が子を見る様な母親みたくなって、呆れ果ててんのに表情は柔らかい。
名前と呼ばれた人がマネージャーやっちゅうのは安易に分かったけど、


『格好良いね…!!蔵が握手なんかズルい、ちょっとあっち行ってよー!』

「…………」


部長を押し退けて掴まれた両手からは、部長とは真逆に小さくて、決して細い指や無いけど柔らかくて女の手をしてた。


『名前、またミーハーな事言うて1年生困らせたらあかんやろ』

『ミーハーじゃないもん、本当に格好良いもん!』

『堪忍な財前君』

『、財前?財前光君!?名前まで格好良いんだね光君!』

「別に、普通や思いますけど」

『アタシが格好良いって思ったんだから格好良いんだよ』

「―――――」


当時あの人と変わらんくらいの背丈やった俺は今まで“可愛い”としか言われたことが無かったから“格好良い”て言われるのが初めてで新鮮で。
眼と眼を合わせて照れて恥ずかしがることもなく、惜しみなく笑顔をくれたあの人が気になった日。


『アタシ、マネージャーしてる名前です!光君、末永く宜しくね』


どんな自己紹介?末永くって、普通使わへんやろ…
せやけど、ぎゅうっと込められた手からは俺より高めの体温が伝わってきて、全身全神経名前先輩の熱を貰った気がしたんや。
ホンマは、気になるとかそんなレベルやなくて“好き”になった日。初めて出逢って初めて触れて、あの人をずっと見たいと思った。

せやのに先輩はもう俺が必要無いんやろ?
もう、手繋いでくれへんのやろ?

“末永く”言うたんは先輩やのに。名前先輩は嘘吐きなんですね。



END.

(20090514)


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