切願、
心から願うこと。
calf love
story.14 now...
光の腕に居た時、ふわふわ身体が浮いているみたいな浮遊感があって、だけど光が動く度に触れる度に確かに感じる光自身がアタシの脳も神経も刺激した。
ずっと、光に抱かれてたいって思ってた。
少し離れるだけでも寂しくなって、家に帰っても授業を受けてても光に触れたくて触れられたくて、光との距離がもどかしかった。
『名前、』
「あ、何?」
『同じ顔してんで?』
「、同じ?」
膝の上に広げたお弁当も減ることが無く、お箸を持って固まったままだったアタシに蔵は愁眉に笑った。
『今朝、アイツもそんな顔しとった』
「…………」
蔵が言うアイツは勿論、光のこと。
アタシが別れるって言ってから何も言わず受け入れた光も同じ顔してたって…?
光もアタシのこと考えてくれてたって言いたいの…?
『俺は俺で名前でも無いし財前でも無いから、何でこういう結末を選んだんか分からへんよ?』
「…………」
『せやけどそんな顔して我慢せなあかんほどの事やったん?』
「、それは…」
『勿論俺がどうこう言う立場ちゃうのは分かってんねん。せやけどなぁ、ココが可哀想や』
「―――――」
トン、と小さい音を立てて蔵の人差し指がアタシの眉間に当たる。
その瞬間、溜まってたものが溢れそうになって眼の奥がツーンとした。
蔵が何も聞かないでくれたことに安堵して、だけどそれでもアタシの気持ちを汲んでくれることも嬉しくて。
本当の本当は別れたくなかったって吐き出しそうになった。
「蔵、アタシね、」
『待った』
「え?」
『相談なら幾らでも乗るし聞いたるよ。やけど、名前が言いたい言葉は俺に言うことちゃうやろ?』
「…………」
『そういうのは、ちゃんと伝えたい相手に自分の口で伝えなあかんのや』
多分蔵は、アタシの思いも考えも全部分かってるんだ。
だからアタシに道筋を教えてくれるけど、だけど……
「言える訳、無いじゃん…」
別れたいって言ったのはアタシ。
別れなきゃって思ったのはアタシ。
なのに今更別れたくないだとか、泣きたいだとか、どの面下げて言えばいいの?
もしアタシが光ならふざけんなって言うに決まってるもん。
『ほな、このままでええんか?』
「…自分が、決めたこと、だから」
『名前がそこまで言うなら俺ももう何も言わん』
「うん……」
『ただ1個だけええ?』
「う、ん?」
『自分が言うた言葉に責任持つっちゅうんなら辛い気持ちも寂しい気持ちも自分の中だけで消化し』
「、」
『あの謙也でさえ、名前のそういう雰囲気感じ取って離れてんねん』
「謙也、が…」
『心配して貰えるのもええ事やけど、結論付けたんなら周りにも悟られたらあかん。余計な心配させるんは甘えてる証拠や』
「……………」
てんで減らないアタシのお弁当とは逆に、いつの間にか完食した謙也がテニスコートの方でラケッティングしてた。それすら気付いてないアタシは自分の事しか見えてなくて。
これじゃあ蔵にお説教されるのも仕方ないよね、蔵の言う通り、決めたのはアタシだもん…
「蔵、ごめん…」
『…別に謝らせたい訳ちゃうかったんやけどなぁ』
「ううん、アタシが悪いもん…」
『そろそろ、教室戻ろか?』
「……うん」
蔵の言葉に納得して立ち上がったアタシだけど、やっぱり寂寞は消えることなんか無くて涙を我慢するのに精一杯だった。
だって今でも光が好きだもん…
別れるんじゃなかったって後悔するくらい好きだもん…
光を思い出す度に全身が震える。光の声も、一喜一憂する顔も、体温も…鮮明に身体が覚えてた。
(20090723)
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