calf love、
幼い恋。
calf love
story.15 peliod
今日1日、名前先輩を思い出して名前先輩の事しか考えられへんくて、どれだけ自分が女々しく情けない男なんか知った。
散々格好付けて見せたって、ホンマの自分はこんなもん。可笑し過ぎて笑えへん。
「部活、行きたない…」
あの人に会いたい、せやけど会いたくない。
あの人と話したい、せやけど話したくない。
矛盾心理は無限ループでしかなくて会いたい会いたくないの繰り返し。
それでも重い足が部室へと向くのはやっぱり会いたい気持ちが勝っとるっちゅうことなんか……。
『あーあ、どっちもこっちもヤル気無い顔して情けないなぁ』
「、」
『昼休みも大概酷い顔しとったけど、今はもっと凄い顔やな財前?』
「気付いてたんですか…」
部室のドアノブに手を掛けようとした時、肩に手を乗せてきた部長は苦笑しながらも呆れた顔で。
そういうの、惨めになるんで止め貰えません?
分かってやっとるからこそ、タチの悪い人や思う。
『あんな目立つ所で恋煩いしてますーっちゅう財前は見物やったしな』
「…………」
『ん?何処行くんや?』
「今日は帰ります、付き合うてられへん」
『……ホンマにええんか?』
ここぞとばかりに遊んでくる部長に腹が立って、図星やからこそ余計に腹が立って身体を反転させたのに、1オクターブ下がった声に静止させられる。
『何を考えてウジウジしとんか知らんけど、自分から動く事も必要なんちゃうん?』
「余計なお世話ですわ…」
『財前、俺もムカついてんねんで』
「は、」
『お前かて俺が名前に指輪あげたん知っとるやろ?』
「知って、ますけど…」
『何であげたか、それくらい分かってくれんと困るわ』
「―――――」
それは、そういう意味なんです?
やっぱり部長は名前先輩が好きやったんですか?
『名前の気持ち考えたら財前と一緒になる事がええ思て黙ってたけど、財前がそういうつもりなら俺が貰てもええんやな?』
「……………」
『…口付いてんねんから何とか言いや』
何とかって、何を言えっちゅうねん…これだけ醜態を晒した俺が、今まであの人のことだけを考えて来た部長に…
言える事なんや何も無い。
『ハァ…財前と話すだけ無駄やったな』
「…………」
『名前も名前で俺の指輪外してたし、もう1回ちゃんと渡さなあかんわ』
「、え?」
呆れ返った部長をそのまま見送ろうと思たのに吐き出された厭味が引っ掛かった。
名前先輩は俺の指輪を外してた。せやけど首からぶら下げてたチェーンは未だに付けてた筈や。せやったら部長は何でそんな事言うんや…あの部長が見間違えるとか絶対有り得へんし、嘘吐くとも思えへん。そうなると……、
「部長、」
『何や?』
「…すんません」
『言うとる意味が分からんけど』
「ほな、有難うございました」
部長のわざとらしい厭味は単なる厭味やなくて、俺に気付けって言うてたんや。
今あの人の首からぶら下がっとるのはペアリングやっちゅうことに。それならそうと早く言うてくれたら良かったんに…まぁ厭味にしたかったんやろうけど。
「もう部活始まるけど、少しだけ時間下さい」
部長のお陰でやっと踏ん切りが付いた俺は格好良いも悪いも捨てて、あの人に会ってあの人にちゃんと伝えたいことを伝えようと走った。
『で、謙也はいつまで隠れるんや?』
『し、知ってたんか…!』
『バレバレやわ』
『……す、すまん。せやけど白石って、名前の事好きやったん?初めて知ったわ……』
『……………』
『、白石…?』
『さぁ…どうやろな…』
□
「名前先輩、」
『!』
既にテニスコート脇でボールやらネットやらの準備をしてた先輩を見付けて腕を掴むと、案の定怪訝な顔を俺に向ける。
「話し、あるんですけど」
『アタシは無い…』
「聞くだけでもええんで聞いて下さい」
『……………』
例えどんなに嫌がられようと、俺が言いたいこと言うまでは離さへんから。
「名前先輩、好きです」
『、え……』
「やっぱり、別れる事に頷いたんは撤回しますわ」
『…………』
「先輩が何て言おうと俺は別れたりせえへん」
『なに、今更…』
「せやけど先輩やってまだ俺が好きなんやろ?」
『あっ、』
左手で首のチェーンを引っ張ると俺のより幾分傷が少ないリングがあった。
ソレを見て緩んでしまいそうな筋肉と同時に、初めて伝えた“好き”っちゅう言葉に何か満たされる気さえした。
何で今まで伝えへんかったんやろって、何が格好悪いやろって、それこそ羞恥でしかない。
『……んで、』
「え?」
『何であの時そう言ってくれなかったの…』
「……………」
『アタシ、光に好きだって言って貰いたかった。別れたくないって引き止めて欲しかった…』
俺自身、名前先輩に好きやって言われることが嬉しくてそれを望んでたのに、先輩は言わんでも分かってくれるって決め付けてた自分が居った。
好きっていう情愛は伝わっても、言葉にするのとしないのとでは重みが全然違うのに。
『アタシばっかり好きで、独占欲だっていっぱい増えて、ほんの少しも光と離れたくないって、ずっと一緒に居たいって思って…だから、そんなの光には迷惑だって思ったから…』
「それが別れる言うた理由なんです…?」
『だって光には光の生活があるのにアタシばっかりとか駄目じゃん…』
もっと俺が言葉にしとったなら先輩はこんなに悩まずに済んだんやろうか。
名前先輩の言う俺の生活、反して名前先輩の生活、それぞれがあるのも分かる。幾ら2人の時間だけを望んでも叶えきれへんのが事実やけど。せやけど俺は…
「俺も同じですわ」
『、え?』
「俺も、先輩との時間だけあればええって思ってますから」
『ひかる…』
「家に帰って会えへん時間も先輩ん事しか考えてへん」
『……………』
「離れた時やって、俺の時間は名前先輩で出来てんねん」
それでも会いたくて仕方ない時は会いに行きます。それでええんちゃいます?
独占欲やって情愛やって、制御出来るもんちゃうねんから。
『…ひ、ひかる、』
「うん?」
『アタシ、光と別れたくない…』
「うん」
『これからも付き合ってくれる…?』
あんな先輩。
涙目で訴えてくるんは可愛えしそそられますよ、せやけどな?
「人の話し聞いてました?」
『き、聞いてたじゃん…!』
「ほな付き合ってって言うんは間違てないですか?」
『…………』
「これからも宜しく、やろ?」
『うん…』
独り善がりで幼稚な恋愛に終止符を打って、もう一度“好きです”と伝えた。
(離れれば離れるほど)(気付いた愛の大きさ)
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完結です。
意味がちゃんと伝わるのか分からない上に光が気持ち悪くなって失笑です…
が、兎にも角にも完結出来て良かったです!お付き合いして下さった方、有難うございました!
(20090723)
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