淫猥、
下品でみだらなこと。
calf love
story.12 beat
『天気ええし、外でご飯食べよか?』
いつもなら光と2人で過ごすお昼休み。蔵が声を掛けてくることなんてあり得ないのにこうして誘ってくれる辺り、やっぱり蔵は消息通なんだ。
「…聞かないの?」
『名前が話したい時に聞いたるから』
「…………」
『謙也ー!ご飯食べに行くでー!』
『ちょう待って!』
有難う、言うタイミングを失っても“分かっとる”そう言ってるみたいに腕を引いてくれて。
テニスコートまで歩いてやっと離された手からは蔵の余韻が残った。同じ男の子の手なのに、何でこんなにも光と違うの?何で光みたいにドキドキして嬉しくならないの?
光と離れて、光と居ない時間は今までよりずっと光の事考えてる。光が恋しい。
あの日、初めて光と一緒に過ごした昼休みだってすっごくすっごくドキドキした。
『あ、唐揚げ』
改めて好きだって口に出すと滅茶苦茶恥ずかしくて、挙句にはパンツ見られちゃったとか本当にどうしようもなく羞恥でしかなくて、やっぱり光も男の子なんだって思いながら話題を変えるようにお弁当を広げた。(変なパンツ履いてなくて良かった…!)
だけど頭の中は色んな意味でモヤモヤして、噛み付かれた跡が未だに熱くて。照りつける太陽の何倍熱があるんだろう、とか。くっきり跡が残ってたら蔵と謙也にからかわれるのかな、とか。
気恥ずかしくてはにかんじゃうのか、照れ臭くて渋面するべきなのか分からないアタシに向かって、コンビニで買ったパンを片手に羨ましい眼を向ける光。
「、食べる?」
『食べる』
「じゃああげるから取―――っ、」
『ん、美味いスわ』
唐揚げなら手掴みでもイケるでしょ?そう思ってお箸で取った唐揚げとは別のお弁当箱に入った方を差し出したのに、光はアタシの右手に自分の右手を重ねてそのまま口に運ぶ。
普段ジュースを回し飲みしたりするんだからこのくらい何て事ない筈なのに。
重なった手も口に入ったお箸にも心臓は反応して意識的になる。
相手が光だから、光が好きだからドキドキするの。
『横で弁当食べられると弁当がええって思いますわ』
「光いっつもパンなの?」
『半々くらい』
「そっか、パンも美味しいよね」
意識しまくってるアタシとは裏腹、光は何でもない顔しちゃって。1人で馬鹿みたいって思う反面、光は何も気にならないのかなって少しだけ寂しくなった。だけど噛み付いたって平気な顔してるんだもん、気になる訳ないよね。(ダメダメまた思い出したじゃん!)
『名前先輩、』
「え?」
『さっきから百面相』
「!」
『赤なったり青なったり笑ったり凹んだり、そない気になる事ありました?』
「べ、別にそんなこと、」
見透かしたみたいにニヒルに笑う光に更に羞恥心は煽られて。もしかしてからかってた?
信じらんない、ちんけなプライドを翳して冷静を繕った瞬間、屋上のドアが勢い良く開いた。
『あ!財前君やっと見付けたー!』
「、」
紙バックを持った女の子はアタシと同じ眼で光を見る。
本人に聞かなくても分かる、光が好きだってこと。
『めっちゃ探したんやで!』
『……………』
「ひ、ひかる、」
『……名前先輩』
「、え―――――」
『っ!?』
『……見て分からん?取り込み中なんやけど』
『な、』
『ハァ…ハッキリ言うわ、邪魔』
『わ、悪かったな!お邪魔しました!』
今、何が起こったの?
酷薄な言葉を並べた光と怒って帰る彼女。彼女が怒ったのは、光のせい?それとも光の口唇とアタシの口唇が触れたから?
グイッと引き寄せられた後頭部のせいで確かにアタシと光はキスをした。
「ひ、ひか、」
『すんません。もう1回ちゃんとしてもええですか?』
「ちゃ、ちゃんとって…」
『見せ付けるんもええけど、やっぱり2人で味わうもんやろ?』
何でわざわざそんな言い方するの…本当光ってばやらしい。だけどアタシも光が言った通り、光を感じたいから。
「…も1回、する」
『ククッ、何回でもしたらええですわ』
触れては離れて、また触れて。
啄むみたいに口唇を口唇でなぞって、その一点から全身で“光”を受ける。
時折淫猥な音が耳に付いて官能的過ぎて頭がクラクラするけど気持ち良い。好きな人に触れること、ドキドキして息苦しいのにそれがこんなにも心地良いだなんて麻薬みたい。
『あー…』
「、どうかした…?」
『此処が学校やなかったら良かったのに、て』
「どういう意味?」
『これ以上保たへん』
「え?」
『分かっとるくせに言わせたいんですか?』
「い、いい!言わなくていい!」
『ククッ、残念』
どこまでも厭らしい光には歩く卑猥物ってあだ名を付けてあげたい、なんて舞い上がってたけど。
今思えば「あの子誰?」アタシが聞きたいのは分かってた筈なのに、やっぱり光は初めから何も言ってくれない人だったんだ。
END.
(20090701)
←