理由、
そうした結果に至った事情。
calf love
story.11 wind
教師の声も右から左、クラスメイトも皆が皆全て空気と変わらへん中チャイムは鳴る。
何時間も同じ繰り返しで1時間程の昼休みを迎えると、自販機でブラックコーヒーを買うて屋上へ向かった。
「…………」
昨日までは絶対隣に居った存在が嘘みたいに無くて、屋上から見えるテニスコート脇には3年陣が円を描いて弁当を広げてた。
口の中で広がる豆の苦味に思わず眉は中心に寄るけど流石に今は…甘いもんなんや選べへんかったんや。
バタバタと足音が聞こえて開くドア、想像通りの姿に緩んでしまいそうな口元をきゅっと締めた。
『ごめん光、待った?』
「ちょっと」
『あはは、先生に課題提出しに行ってたんだごめんね』
昼休みは1人で来て下さい
約束通り1人で現れた先輩にそれだけで十分ですよ、そんな気の利いた台詞なんや言える筈もなく適当に返事して。
さっきも会いに来てくれた事が嬉しかったのに照れ臭かった。たった10分しか無い休憩を俺に宛ててくれたんやって嬉々としてたのに、やっぱり先輩には誰かが隣に居る。それが照れ臭い以上に悔しかった理由。
『光、光、』
「はい?」
『これあげる』
「カフェオレ?」
『待たせたお詫び』
だから怒らないでね、悪戯に笑ってカフェオレでご機嫌取りをするけどたかたが10分くらいの遅刻に目くじら立ててる訳やない。
せやけど『もう機嫌直った?怒ってない?』て、笑ってるくせに心配を隠しきれん名前先輩が可愛くて仕方なかった。
「怒ってる、言うたら?」
『えー…困る…』
「心配せんでも怒ってませんて」
『本当?』
「っちゅうかコレ買う方が時間食ったんちゃいます?」
『…やっぱりバレた?』
「自販機、結構混むし」
『そうなのー、今日も凄い人集り』
「ほな別に良かったのに」
『……………』
「先輩?」
そんな気使う必要無いって言うたのに今度は名前先輩が拗ねた顔して視線を投げる。
今の会話で何が気に入らんて言うんです?
『だってね、光に何かあげたかったんだもん…』
「せやから気使わんでも『違う』」
「、」
『気使うとかじゃなくて…そりゃ今回はね、カフェオレでしょぼいかもしんないけど、アタシがあげたモノ、ちゃんと飲んでくれたら嬉しいじゃん…』
「……………」
例えばそれがアクセサリーなら身に付けてくれると嬉しいし、食べ物なら食べて欲しい。自己満足な感情ではあるけど相手を想うからこそ成り立つ感情で、先輩は俺にそれを求めてたん?
『良いよ、要らないならアタシが飲むもん』
「待った、要らんとは言うてへん」
『でも、』
「有難く、いただきます。名前先輩がどんだけ俺ん事考えとるか分かったし?」
『そ、そりゃ…す、好きだもん…』
「……………」
好き、
二文字の言葉よりもっと善いものを貰った俺は隠すことなく莞爾して。
「先輩、上」
『え、――――っ!?』
「素直な名前先輩に俺も何かあげたかったんで」
『で、で、で、でも、そんなの不意討ち……!』
「その方が新鮮やろ?」
上を向いてがら空きになった名前先輩の首に噛み付けば自分まで満たされて、こんなくだらんやり取りが楽しいと思うと、真っ赤になった先輩に風が吹き付ける。
『っ、』
「……ピンク?」
『み、見たの!?』
「見て下さい言うたんちゃうん?」
『違うに決まってんじゃん!もうなにー…光ってばムッツリだったの…』
「寧ろあけっぴろげにしてますやん」
『声高に言わないで下さい!』
「ククッ、すんませーん」
捲られたスカートと林檎病みたいに赤すぎる名前先輩がもっともっと欲しくなった。
キスだけや足りひんねん。
この日のカフェオレは馬鹿みたいに甘くて、コーヒーひとつでこんなにもあの人が過る。
END.
(20090624)
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