貪欲、
非常に欲が深いこと。
calf love
story.10 want to meet
“俺の彼女”
光と一緒に過ごせられる時間があればそれだけで良いって思ってたのに贅沢な思いは膨らんで膨らんで、耐えきれなくなった風船が割れるみたいにアタシの思いも霧散しませんようにって、強く願った。
光が好き、
光とずっと一緒に居たい、
不安はあっても別れなんて来ない、あの頃はそう思ってたのに。
「はー……」
『緩んだ顔やなぁ?』
「え?そ、そうかな…」
『“ひかるー”っちゅう顔してるで?』
「……………」
そりゃ光の事考えてたんだもん、そうかもしれないけど…だけど改めて人に言われると照れ臭いのもまた事実。
『せやけどしゃーないな、大好きな財前に告白されたんやもんな?』
「何か蔵、意地悪ーい…」
『そんなことないて、祝福してんねん』
「そうなの?」
『当たり前やろ?名前の恋が実ったんやから俺かて嬉しいねんで』
高校に入って蔵に出逢ってからずっと、楽しい時も辛い時も一緒に居てくれたのは蔵だった。
女の子以上に付き合いやすくて話も聞いてくれて、駄目なことは駄目だって教えてくれて。こんな風に改めて思い返すのも恥ずかしいけど、蔵が祝ってくれる気持ちがそれだけ嬉しかったってこと。
「あ、あのね、」
『うん?』
「ありがと…」
一瞬だけ瞠若した蔵だけど、直ぐに笑って『どういたしまして』って頭を撫でてくれる。蔵のこういうとこ、凄く好き。
そんな浸ってたアタシなのに後ろからはゲホゲホわざとらしく咳き込む声。
「なに謙也」
『お前等の喜劇見てたら寒気してん』
「喜劇!?どういう意味なの!」
『まぁまぁ名前、謙也は今日の部活で代わりに買い出し行きたいらしいで?パワーアンクル5倍で』
『誰もそんな事言うてへんわ!!』
本当謙也は地雷踏む天才っていうか学習能力に欠けるっていうか。それともわざと言ってるのかもしれないけど失礼極まりないったら。
どうせ蔵に倍返しされるの分かってるくせに、そう浮かべて窓に視線を移すと、1年の校舎にボンヤリ見えた影にアタシの身体は反応する。
あれって、光だよね?
「蔵、謙也、」
『なんや』
「ちょっと一緒に来て!」
『は?』
「いいからいいから!」
後5分で予鈴は鳴るのに2人を引っ張って教室を出て。
走るのは嫌いなくせに今は走ってて。
『何処行くんか思たら1年の校舎?』
「うん」
『財前に会いに行くだけなら俺と白石要らんやん』
『こら謙也、そんな冷たい事言わんの』
『また白石は名前ん事甘やかすんやから』
光を見たら少しの間も我慢出来ない、それは本当に本当に光のことが好きって証拠。
ほんのちょっとでいい、会いたくなったの。
だけど教室から見えた廊下に光は居なくて、教室の中にも居ない。
『財前居てへんやん』
「あれー…光何処行ったのー…」
『他の子等居るから移動教室っちゅう訳やなさそうやしなぁ』
『何してるんスか』
「、光!」
『2年が1年の教室なんや来たら目立ってますよ』
3人で教室を覗いてるといつの間にか背後に光。やっと会えた、大袈裟に感動するアタシと反対に光は飄々と相変わらずな顔で。
『財前何処行ってたんや』
『なんやそれ…トイレも行ったらあかんのです?』
『ああ、トイレか』
『っちゅうか何か用事スか』
「えっと、うんと…」
そんな相変わらずな光を見るとただ会いに来たって言えない気がして。光は会いたいとか、思ってくれないの…?
「あ、昼休み!一緒にご飯、食べようって…」
『そんなんメールで言えばええのに。もう授業始まりますよって』
「あ…うん…」
やっぱり光は思ってくれないんだ。そうだよね、さっき会ったばっかだもん…授業の間も我慢出来ないアタシが、我儘なだけ。
『名前、授業始まるし戻ろか』
「うん…」
口にはしないけど蔵だけじゃなくて謙也ですら“そんな言い方せんでもええのに”って顔してた。
そんな表情されると余計虚しくて切ないのに。
会えただけで幸せなのにもっと甘い言葉が欲しい、そう貪欲になる自分を恨めしく思いながら蔵と謙也の背中を追い掛けると不意に引かれた腕。
「、」
『屋上』
「え?」
『昼休みは1人で来て下さい』
「……………」
たったその一言だけで耳から頭、爪先まで熱くなって「会いに行って良かった」180度思いは振り出しに戻る。
だってね、メールでいいって言うのが光の強がりだったら愛し過ぎるもん。
END.
(20090618)
←