俺とアイツ | ナノ


 


 06.



『あ、おはようございます』

「……………」


アイツに会って3日目、朝練に行くと異様な光景に言葉を失った。
ニコニコしたアイツの横にはニコニコした侑士。
それだけなら未だしも、アイツは眼鏡を掛けてないし薄ら化粧もしてる。


『どないしたんや岳人、黙り込んでしもて』

「え、あ、」

『名前ちゃんが可愛いからってビックリしたんか?』

『か、可愛いなんて全然ですよ…』


侑士に可愛いと言われて照れるアイツは確かに俺も可愛いと思った。前に素顔を見た時は一瞬だけで焦点も合わないまま眼鏡を掛けちまったのに、今目の前に居るアイツはしっかりこっちを見て口角を上げたり緩めたり。

新鮮だし、やっぱりこっちのが良いって思うけど何で急にコンタクトにした訳?
俺が言った時は異物混入は嫌だとか変なこと言ってたじゃんよ。


『ほな岳人、そろそろ部室行こか?』

「あー、そうだな…」

『今日も頑張って下さいね!』


コンタクトで化粧すればいい、それは自分が思ってたことなのに何で素直に「良いじゃん」て言ってやれねーの?
自分自身が分かんなくて頭を掻きながら部室へ向かった。


『岳人、』

「んー」

『名前ちゃん可愛いなぁ?』

「ま、まぁ…」

『昨日本屋寄ったら帰りに名前ちゃんに会うてなぁ…』

「は、マジで?」

『軽く話してんけど、折角可愛い顔してるんやから眼鏡で隠したら勿体ないでって言うてん』

「それって、」

『それからコンタクト買いに行ったんやろなぁ?素直で可愛い子や』

「……………」


そういうこと?
そりゃ自分が好きな男にそう言われたら眼鏡も取りたくなるって話だけどさ。
だけどやっぱり心臓がチクチク、ズキズキして面白くなかった。
何だよ名前の奴。普通そういう事があったんなら俺に1番に報告しろよ。侑士の口から聞くとか何か嫌じゃん。


「、」

( が ん ば れ )


クソクソ!思いながら視線を移せば口パクで手を振ってくる。嬉しいのにモヤモヤは捨て切れなくて“ばーか”って言い返してやれば怪訝な顔された。


「ブッ」


軽くムカついてたのに笑っちまったじゃん名前の馬鹿。


  □


『岳人先輩、お疲れさまでした!』

「あーお疲れ」

『実は先輩に聞いて欲しい事があって』

「侑士の事だろ?本人に聞いた、良かったじゃん」


朝練が終わってタオルを被ったままテニスコートを出るとノート片手の名前に出迎えられる。
疲れた俺に対して元気満々なアイツを見ると、これが恋愛の力ってやつか、なんて。


『聞いたって、』

「侑士が名前ん事可愛いって言ってた」

『ほ、本当ですか…?』

「お前が居る前でも言ってたじゃん」

『それはお世辞っていうか、社交辞令っていうか…』

「お世辞ならわざわざ俺に言って来ないって」

『……な、何か照れます』


侑士本人が居る訳じゃないのに本気で照れて。もう本っっ当にさっさとくっ付けよ、焦れったい。


「じゃあ俺行くぜ」

『あ、岳人先輩!』

「うん?」

『岳人先輩も、そう思ってくれますか…?』

「そうって何が?」

『だ、だから、か、かわい、って…』


もごもご喋るアイツがリアルに馬鹿みたいに見えてデコピン一発。


「侑士より先に可愛いって言ったの俺じゃん」

『!』

「忘れてんな」


痛い、なんて言いながらおでこを擦ってるくせにニヤけた顔するから、


「名前、頑張れよ」


俺も応援してやった。
早く侑士と上手くいけばいい、気持ちはそこにあるのに未だチクチクする痛みが俺の脳を刺激した。

クソクソ頭痛いっつの!
保健室行くかなー。


(名前納豆持ってねぇの?)(持ってる訳ないじゃないですか…)(クソクソ納豆食ったら頭痛治りそうなのに)(治りませんよ普通…それより保健室で寝て下さい)(おぶってくれんの?)(何で…!無理に決まってるじゃないですか!)(ケチーなー)



(20090707)


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