俺とアイツ | ナノ


 


 04.



予鈴が鳴ってもうすぐ授業が始まることを知らせれば俺もアイツも教室へ向かうけど、『またな』って声を掛けた瞬間アイツは小っこい石ころに躓く。
転びはしなかったものの、あんなもんに躓くとか…やっぱり納豆の神様が怒ってんだろうなって思った。


『がっくん』

「何だよ侑士、ニヤニヤして気持ち悪い」

『いやぁ熱いなぁ思て』

「は?何が?」


右手で口元を覆いながらニヤニヤする侑士はテニスコートの外を視線で指して『羨ましいわ』の一言。
そっちを見るとアイツが居て眼が合ってヒラヒラと手を振ってくる。


「熱いって何だよ」

『遂にがっくんも彼氏なんやなぁ…まさか先越されるとは思わへんかったわ』

「馬っ鹿じゃねーの!俺と名前はそんなんじゃねぇし」

『隠さんでええねん、俺等の仲やろ?昼休みも一緒にご飯食べてたん知ってんねんで』

「だから違うって!大体アイツは侑士の――、」


“侑士のストーカーじゃん”
危ない。あんまりにも侑士が分かってくれないから口が滑りそうになった。

(黙ってて下さいね)

そりゃ俺の口から言うもんじゃねぇし、わざわざ言って印象悪くするのもどうかって分かってるけど、これはこれで面倒臭い。アイツもとっとと告白すりゃいいのに。


『俺が、何や?』

「何でもねぇ」

『意味深やなぁ…』

「と、兎に角、教科書拾ってくれたことに感動してるらしいから侑士も声掛けてやれば!」

『そういう事?別に大した事あらへんのになぁ…』

「名前にとっては大した事あったんだろ」

『俺、凄絶色男やしな』

「侑士きもい」


早く告白すればいい、そう思ったのに侑士の顔を見てると昨日“言うもんか”と思ってた自分が過った。
跡部に次いで侑士もモテるしアイツじゃなくても良いんじゃないかって。別にアイツだって今以上の関係を望んでる風でもないし。
まだ俺ですらアイツの事知らないことばっかなのに、俺より侑士とかせこいじゃん。



  □



「よっ」

『あ、お疲れさまです』

「まだ終わって無いけどなー」

『大変ですよね、部活も…』

「お前もな」


俺等の部活があればアイツのストーカー業もあるって訳で、運動しないにしても本当お疲れ。
話する訳でもないのに見るだけって飽きねぇのかなぁって。もし俺が侑士を観察しなきゃいけないなら5分が限界。(何か気持ち悪くなってきた)


「なぁ名前」

『何ですか』

「コンタクトにしないの?」

『えー…眼に異物入れるとか怖くないですか?』

「間違ってないけどその表現止めろよ」

『でも急に何なんですか』

「コンタクトにして化粧すれば可愛いじゃん」

『な、なっ…!』

「なに」


眼鏡掛けてそんな事してるから益々変な女って思うだけで、もしアイツが美人だって分かった上での行為なら。侑士だったら喜んで食い付きそうだけど。


『む、向日先輩てアタシの事やっぱりそういう眼で…!』

「名前黙れよ」

『ま、またそんな言い方して…』

「名前の性格3ヵ条、しつこい・失礼・すぐ調子乗る、以上」

『何ですかそれ!そんなのアタシ最悪な女じゃないですか!』

「分かってんなら良いよ」

『ええ…!』


俺の分析は間違ってないけど、顔を歪めながらそれすらもノートに書き込むアイツにウケる。
“侑士先輩に失礼だと思われないように気を付ける”だとか本当どうなんだよ。因みに3ヵ条とは別にもうひとつ、こういうとこが可愛い。絶対言ってやんねーけど!


「お前そんな事わざわざ書くなよー」

『だって向日先輩が…あ、』

「え?」

『やっぱり岳人は此処に居ったんか』


アイツが寄せてた眉を急に上げて緊張した顔したと思ったら案の定。
腕を組んで『ホンマ自分等仲ええな』だとか失笑する侑士。


「別に普通じゃん。な、名前?」

『あ、は、はい!』

『そうか、まぁそれはええとして休憩終わりや岳人』

「もう?早くね?」

『後1分しか無いで』

「クソクソ、10分と言わず30分くらい休憩してくれりゃいいのに」

『放課後はあんまり時間無いしなしゃーないわ…それに俺やったら10分で回復するし』

「悪かったな俺がスタミナ無くて!」


たった10分の休憩なんか短いし侑士は嫌味っぽくてムカつくし。
あーあ、怠いなぁって憂鬱な溜息を吐いた後、飛び上がってコートの方へ足を向けると、


『む、向日先輩!』

「ん?」


ノートを背中の後ろに隠した名前が呼び止めてきて。


『残り時間も頑張って下さいね…』


約束通り、応援してくれてんだって。
たかだか頑張れの一言なんか聞き慣れてるのに、何か無性に可笑しくて憂鬱が消えてった気がした。


「おー!サンキュー」

『あの、侑士先輩も頑張って下さい…』

『おおきに。ええ子やな』

『あ、いえ、』

「……………」


だけど憂鬱とは別に生まれたモヤモヤした感情は何なんだ?

向日先輩、侑士先輩、

この見えない差が胸をチクリと刺激した。


(クソクソ!)(え、向日先輩?)(名前ムカつく!)(は、何でなんですか!)(がっくん、女の子に八つ当たりはあかんで?)(あー!侑士もウザイ!)




(20090629)


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