04.
(ver. 朝日奈家十一男・侑介)
死に物狂いで必死に勉強して受かった高校、受験中はよっぽどランクを下げて楽をしたいって思ってた。だけど合格した時はそれなりに嬉しかったし、入学式ん時にはあの時必死んなってて良かったってメチャクチャ思った。
アイツとすれ違った瞬間、俺の世界が広がったから。
椿『一応聞いとくけどさー、侑介と名前ってクラスメイト以外それ以上の関係なんて事ないよねー?』
「ぶっ!!ったり前だろ!?何馬鹿言ってんだよつば兄!!何で俺がこんな奴なんかと…!」
『その言い方はちょっと傷付くんですけど…』
椿『だよねー酷い弟でごめんね名前ー?』
『いえ別に良いです…』
椿『優しいなぁ俺の妹はー!だけどさ、良かったって思わない?』
『え?』
椿『俺的にはライバルが1人減ってラッキーだしー?名前をとことん独占出来る時間が増えんじゃん!やっぱ好きな子盗られたくないしねー?』
「はっ?!」
『な、何の冗談ですか!そそそそんな事簡単に言わないで下さい恥ずかしい…!』
つば兄の言葉で真っ赤になって俯くアイツを前に、一瞬だけ部屋中に静寂が走った。多分それは俺等キョーダイ皆感じた事が同じ、所為。か、かか、可愛い、って。
椿『ねぇ名前…』
『は、はい?』
椿『冗談じゃなく本気だから、チューしてい?』
『ええ!?』
「!!!」
要『じゃあ次は俺ね俺〜』
梓『本当に2人共、いい加減にしなよ…?』
椿『あ、あずさぁ、怖いからね、その真っ黒い笑顔…』
要『さ、さて、俺は仕事に行って来るかな』
「………………」
こういう時ばっかは素直に言葉が出て来るつば兄が羨ましくなる。言ってる事チャラいし、やってる事もチャラいし、そんな風にはなりたかねぇけど。でも、少しくらい気の利いた台詞が言えたら良いのに。
いきなりキョーダイになりましたって言われてぶっちゃけ簡単に割り切れねぇしテンパってるけど、やっぱさ、それ以上に嬉しいじゃん。嬉しいに決まってんだろ。
雅臣『ねぇ侑介、女の子の前で顰めっ面しない方が良いよ?』
「う、うるせえよ…」
雅臣『損な性格だけど、僕は憎めないんだよね』
「なんだソレ」
雅臣『彼女、優しそうだからきっと解ってくれるよ』
「なっ、ううううるせえって!」
雅臣『あははは』
お、俺だってそんくらい雅兄に言われなくたって分かってるっての。アイツは人一倍優しいんだって、1年も見て来たんだから知ってる。
入学式の帰り、さっきまで晴れてたのに途端、驟雨に見舞われ苛立ってた。入学式だろうが遅刻寸前の俺が天気予報なんかチェックする訳無くて、出掛け際快晴だったなら傘だって持ってない。
ワックスが混じった不快な雨が滴る度に苛々は募っていって、そんなところに赤い傘が傾くのが見えて。あんな傾けたら自分が濡れんのに馬鹿じゃねえの、そう思ったのに、赤い傘が低くなった瞬間眼に映ったのは満面に笑う小学生だった。
傘、2本持ってる筈無いのに、ソイツはお構いなしにガキンチョに譲ってやったんだ。
それから必然的に髪が、制服が、シトシト濡れてくのを見てると…俺、好きだなって、思っちまった。
あどけないくせに綺麗に見えた横顔と、あの時の赤い色が脳裏に焼き付いて離れなくなった。
だから、クラスが違った1年もずっと、アイツを探してアイツを見て来たんだ。
『朝日奈君、』
「………………」
『朝日奈君?』
「、え?!な、なんだよ!」
『これからはアタシも朝日奈になるから侑介君て呼んでもいい?』
「っ!」
『駄目?』
「、が、学校では呼ぶなよ…!!」
『うん!ありがとう侑介君!』
ああもう、名前呼ばれただけで泣きそうとか有り得ねえから!かかか可愛いんだよ馬鹿!
(20120609)
かなりの捏造すみません…!
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