03.
(ver. 朝日奈家六男・梓)
右京『――という訳で、こちらから長男の雅臣兄さん、私が右京、それから要、椿、梓、昴、弥です。全員揃ってないので他の兄弟についてはまた改めて紹介しますね』
『はい!今日から宜しくお願いします!』
今日から妹となる彼女を、リビングとして使用しているマンション5階へ案内すると皆が顔を揃えて待っていましたと和やかな笑顔で出迎えた。
雅兄、京兄、弥に関してはいつも通りではあるけどやはり一部困った人達が居るのは否めない。
要『ん〜やっぱ女の子は良いよねぇ、深く宜しくね妹ちゃん』
『ひっっ!?』
椿『ちょっとかな兄さぁ、俺の大事な妹の手にチューするの止めてくれない?名前だって俺のが良いっしょ?』
まずはこの2人だ。
今までだって女の子に見境無い要兄と妄想好きな椿を痛々しく見て来たけど今日は一段と酷い。よくも今日出逢ったばかりの女の子に軽々しく接するなと呆れ返る。もしそれで嫌われでもしたら元も子も無いだろうに。
昴『ハァ…』
要『あれれ?もしかしてすばちゃん、羨ましい?』
椿『昴は照れ屋だからなー、出遅れちゃって悔しんだよなー?』
次はこれ。前者2名ほどじゃないけど、逆に女の子に免疫が無さ過ぎて不安要素。
普段は大丈夫だとしても何かの拍子に飛んじゃいそうである意味ダークホースかと思われる。
昴『(きっ!)』
要『あらら、睨まれちゃったねぇ』
椿『こら昴ー、名前が怖がんじゃん』
昴『な、いや、俺は別に…!』
『っ、………』
「、」
だけど、スッと僕の背中に隠れる彼女を見ると…
「大丈夫だよ」
『え、』
「変なところも沢山あり過ぎるけど、根は良い人達だから」
『――…はい!有難う梓君』
「うん、どう致しまして」
今のところ僕が優位なのは決定的だろう。
多分さっき椿から常識的に庇ってあげたのが効いているんだと思う。まあ誰だってこんな状況になれば当然の思考だけど。
椿『梓、狡くね?』
要『俺もそう思う』
雅臣『あはは、随分懐かれてるんだねえ、早速仲良しになれて羨ましいな』
要『雅兄。そんな呑気な話しじゃないからね』
雅臣『そうなの?』
椿『ったり前じゃん!俺の妹が梓に盗られるかもっつー一大事だし!』
雅臣『でも僕達の妹だから、盗るとか盗らないとかじゃないんじゃない?そんな物扱いしたら駄目だよ、女の子なんだから。ね?』
『―――、なんか、嬉しいです!有難うございます!』
……前言撤回。もう1人羊の皮を被ったトラ猫が居た。
そもそも僕は母親が再婚する事も妹が出来る事も「別に良いんじゃない」そんな感じだった。悪く言えば興味が無い、その程度。多少は気になるけど椿が言う様な妹萌えなんて無いし、既に兄弟は沢山居るからまだ増えるんだってくらいで。
なのに優位だなんて考えてしまったのは……やっぱり結局僕も椿や皆と同じ血が流れてる証拠なのかもしれない。
仕事帰りに本屋へ寄ろうと回り道をしてると見掛けた彼女の姿。地図を片手に右往左往して憂愁な顔で歩いてた。道に迷っているなら声を掛けてあげるべきかと思ったけど意を決して道を曲がったのを見れば、声を掛けるより見守ってあげたくなった。
無事に目的地へ着いてれば良いな、そう思った矢先、自宅前で彼女が椿に迫られてて。瞬時に彼女は妹の名前だって理解したけど、それ以上に僕の使命が生まれた気がしたんだ。彼女の事を陰で見守るのが僕の義務だと。これから大事になる妹であり、女の子なんだって。
『え?あれ?朝日奈君?!』
「、」
侑介『はぁ!?日向?オメー何で俺ん家に居るんだよ…!』
『そ、それはこっちの台詞だよ!今日からアタシ、この家のキョーダイになるんだよ?』
侑介『ばっ…!マジかよ?!有り得ねぇ!!』
「ああ、もしかしなくとも侑介と名前はクラスメイトって事」
椿『うわー更に狡い奴が居たー』
彼女を見てはにかみを隠した様な侑介に、益々僕の使命感は強まるんだった。
優位に立ってられるのはいつまでだろうと。
(20120609)
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