02.
(ver. 朝日奈家五男・椿)
妹が出来ると聞いてから俺は恋に恋をしたみたく良い意味で眠れない日が続いてた。無駄に多い兄弟のくせに女の子は1人も居らずむさ苦しい家族だった訳だけど、母親が再婚する事になって念願の妹が出来るなんて。
諦めてた夢が叶う、それだけで俺は荒ぶってた。
見たこと無くたって絶対可愛い、そう言い切れるほど自分にとっての妹の存在はでかくて、思い切り可愛がって、思い切り甘やかして、思い切り甘えてやろうって決めてた。
そして憧れの可愛い妹が我が家にやって来るというその日、仕事も浮かれ気分でちゃっちゃとこなして、足早に自宅に戻ればエントランスには小さな背中。暫くキョロキョロ辺りを見回した後、躊躇いがちにインターホンに手を伸ばす姿を見たら理性なんか吹っ飛んじまいそうなほど身体が熱くなった。
「あっれー?もしかして俺の妹?」
『、』
「“名前”じゃね?」
予め記憶してた名前を口にすると猛烈に愛しさが込み上げる。多分、この時はそこにどんな女の子が居ようと妹という存在それだけで満たされたんだと思う。でも、
『お兄ちゃん…?』
振り返った顔、放たれた言葉。
ドストライクを超える存在がそこにあった。
間違い無く俺の赤い実が弾けた。理性も弾けた。
妄想の中で散々可愛がって来たのに、それじゃ絶対足んねー。
「―――、やべ」
『え?』
「最っっ高ーに可愛い!!」
俺にとって抱き締めるなんて必然で、どれだけきつくギュッとしたってこの感情は伝え切れない。彼女で良かった、ひと目見ただけで感慨に耽る。
『っ、ぎゃあぁ!!?』
「やっぱ時代は妹だよなー!萌えだよなー!かーいー最高ーマジ大好き!」
『ちょ、え、な、』
俺の腕の中で初々しくもがくとこだってマジかーいー。オトコ慣れなんかこれっぽっちもして無さそうでオニーサンは安心したし感激だっての。
言葉にならない言葉で動揺してる様さえ萌えるし悶えるし、このままオニーサンが気持ち良く黙らせてあげよーかー?
「名前、これからお兄ちゃんと良い事す――痛゙っっ!!」
梓『椿、いい加減にしなよ?』
『、』
「何だよ梓〜、今の久しぶりに本気で痛かったってーのー」
梓『椿が悪いんでしょ?初対面の女の子を襲って怖がらせるから。言っとくけどコレ、痴漢だからね。セクハラだからね。犯罪だからね』
「珍しくトゲトゲしいねー梓ってば…」
鰻登りのテンションをグーパンで断ち切ったのは一卵性の弟、梓だった。俺が馬鹿やると突っ込んでくれるのは梓だって決まってんだけど今のは結構本気だったと思う。ぶっちゃけ梓じゃなかったらやり返してる。愛して止まない一卵性の弟だからこそ許してあげるんだけどさー。
『あ、あの、』
梓『あ、ごめんね。僕は朝日奈梓、こっちの変態が一卵性の兄で椿。今日から宜しくね』
『は、はい!名前です!宜しくお願いします!』
「ちょっと梓、俺が格好良く自己紹介したかったのにさー」
梓『大丈夫、もう格好悪いから』
「マジで今日の梓はトゲトゲだねー…」
梓『とにかく、皆待ってるだろうから早く家に入ろうか。話しは中でゆっくりね』
『はいっ!』
「…………………」
目の前にはトゲトゲしい一卵性の弟に懐く可愛い可愛い妹。そしてズキズキ痛む殴られた頭。
同じ血が流れてるだけあって梓も妹が特別なんだろうっていうのは安易過ぎて、思わず2人の間を割って入ってやった。
だって名前にも梓にも俺が一番、が良いじゃん?
(20120609)
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