08.
(ver. 侑介)
「有り得ねぇ…ぜっっってぇ有り得ねぇから!!」
梓『どうしたの侑介。学校で何かあった?』
椿『さっきから有り得ねぇ有り得ねぇってさ、聞いて欲しいっていうフリなんだろー?さっさと言っちゃえばー?』
「いや、でも……やっぱ有り得ねぇ…!」
椿『吐けって。今すぐにー!』
学校から帰るなり、寧ろ学校に行ってからずっとだ。アレを聞いてしまったお陰で俺は呑気に授業受けてる場合じゃなくなって、昼寝も出来ず頭痛が起きるほど脳みそをフル回転させていた。
そうだ、昨日晩飯ん時に弥が呟いてたアレの真相の所為だ。
今朝、教室に入るなり眼に付いたのは勿論アイツで。家で逢える様になったとは言え、四六時中一緒な訳じゃねえし、いつも俺は遅刻気味だから朝飯を一緒に取る訳でもない。つまり今日は初めてアイツの顔を見る訳で、「クソ、今日も可愛いじゃねえか馬鹿」なんて思った矢先。
アイツは携帯を片手に走り始めた。教室内だから走るって程でもねえけど、一直線に向かった先はアイツが仲良くしてる今井じゃなく、当然俺でもなく、無駄に爽やか風を纏った佐々倉だった。
は、馬鹿じゃねえの!
瞬間的にショックを受けたが、佐々倉だってクラスメイトだ。クラスメイトなら会話くらいするしほんの些細な用事だって時にはある。何も気にする事ぁ無い。眉間にシワを寄せながらもポジティブシンキングをかました。
でも…
(和馬君、部活お疲れ様)
アイツはそう言った。
かずま?誰だそれは。俺の耳が可笑しくなったのか。奴の名前は佐々倉であって和馬じゃねえ。名字は和馬なんかじゃねえ…俺は眉間のシワが取れるどころか背中に厭な汗を感じた。
(ありがとう、それとおはよう名前ちゃん)
なんだって?!
佐々倉てめぇ今何っつった!誰を呼んだ!どの口が喋った!!
(あはは、おはよう。あの、写真、携帯でも良い?)
(写真?)
(え、和馬君まさか昨日の冗談、だった?)
(っはは!冗談な訳無いじゃん。俺は約束のつもりだったし。携帯でも何でも実行してくるのが嬉しい)
(昨日ね、夜に兄弟皆で写真撮ってプリンターで印刷して直ぐに写真立てに飾ったんだ。だけどパパ達の分と合わせてまだ2枚だけだし、物足りなくなっちゃって)
(結構な量の写真が入るデカいの買ったもんなぁ、俺はついでみたいな気がしないでもないけどやっぱ嬉しいよ)
(そんなつもりじゃないよ!けどデジカメも忘れちゃったから、そう思われても仕方ないかも…だけど最近の携帯はデジカメ仕様だし!問題、無いよね?)
(写真、俺にも転送してくれれば問題は無いかなぁ)
(了解であります!)
なんだ。何の会話してんだよ、サッパリ過ぎて呪文に聞こえてくんだが…。
は、約束?
は、写真?
は、デカい写真立て?
お前等一体どういう関係なんだよ…!
(撮れた撮れた!でもアタシ、なんか顔でかくない?和馬君が男の子なのに顔小さいから…)
(んな事無い。十分過ぎるくらい可愛い。撮り直ししても良いけど削除はしないでコレも俺に送って。保護して一生消さないから)
(ちょ、何言ってるんですか…今日も無駄に持ち上げ過ぎ。そんな事言っても何も出ないからね!)
(はははっ、本気なのに)
(もう良いです、恥ずかしいからこれでオッケーにします!)
(ちゃんと俺にも送ってね?)
(分かってます!それと昨日引っ越し手伝ってくれて本当にありがとう)
(いいえ)
―――そして佐々倉は普段見た事も無い顔して笑ってた…って、何で俺は解説紛いな事してんだよ!
っつうかマジで何なんだよ…アイツ等そんな仲良かった訳?付き合ってんのか?いつから?いやいやそんなまさか!
俺が知る限りではつい最近まで平々凡々なただのクラスメイトだった筈だ。ずっとアイツ見てたんだから間違いねえ。
だったらどうして急に………そうか!『昨日引っ越し手伝ってくれて本当にありがとう』ってアレか、弥が言ってたやつか!何だよ、そんな事かよ、それでほんの少しくらい仲良くなったって訳か――――って、それも超絶変じゃねえか…!!
そもそも何で佐々倉がアイツの引っ越しを手伝った?
寧ろ何でアイツは佐々倉を頼った?誘った?
俺だって未だアイツの部屋なんか入った事ねえのにどうして佐々倉招いてんだよ!仮にも奴は男だぞ、その上、胡散臭い爽やか風吹かす様な男だぞ!アイツ馬鹿じゃねえの!マジで馬鹿じゃねえか!
それでもし何かあったらどうする――、まさか、何かあっても問題無い、って関係なの、か?
そんなのぜっっってえ!認めない!
俺は認めねえったら認めねえ!!
そして話は冒頭に戻る。
椿『フーン…弥の話し、何か引っ掛かると思ってたんだけど男だったんだ、へえー』
「そうだ、何かの間違いかもしれねえ!今から弥に確認しに、」
椿『必要ないねー』
「何でだよ!」
椿『どっちにしろ俺のかーいー名前と写真撮ったんだろー?ボコボコにしてやる!二度と名前と話しも出来ないくらい顔も潰してやる、俺が』
「いつになくマジな眼だな、つば兄…」
梓『そうだよ椿。少し落ち着いたらどう?』
椿『コレが落ち着いてられる訳ない!兄としても男としてもその男は撲滅する!』
梓『だから落ち着いて。とりあえず今日は丑の刻詣りでもやろうか、なんだっけ、ササニシキ君だっけ。そいつの為に』
「う、無理矢理間違えた名前に悪意を感じる…」
椿『梓の笑顔が一番怖いから…絶対本気だし…』
あず兄の笑顔でとりあえずその場は解散となったが俺のモヤモヤは晴れなかった。寧ろつば兄とあず兄の本気っぷりに、悩みは増した気がした。
(20120727)
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