pink++/brother | ナノ


 


 09.



(ver. 梓)


『………………』

「………………」

『…あの、梓、君』

「なに?」

『アタシ、何か悪い事とか、気に障る事とか、変な事とか、してたり、するのかなって…』

「どうして?そんな事全然無いよ」

『そ、そうなら良いんですけれども…』

「フフッ、変なの」

『(か、顔が怒ってるのに笑ってる!!物凄く恐ろしい!アタシ本当に何しちゃったの…!)』


昨夜、侑介からササニシキという彼の話しを聞いた後の夕食中こんな会話をしていた。
僕はただ彼女を眺めては、彼とどんな風に何を喋っているのか、そして彼女は彼をどう想っているのかと頭に巡らせていた。相手がどんな奴かも分からないのに確実に芽生えた嫉妬心は誤魔化しなんてきかなくて、彼女がもう少し可愛くなければ良かったのになんて悲観的な事すら浮かべてた。
だけど、彼女や椿達が蒼い顔して俯いていた理由は一晩考えても僕には分からなかった。

そして今日、珍しく昼過ぎで仕事が終わると一目散に足を伸ばした先、それは勿論彼女が通っている学校だ。とりあえずササニシキ君を見ておきたかったし、あわよくば威嚇して追っ払う事が出来ればラッキーかななんて。
椿も誘うかどうかは迷ったけど生憎アイツは今も仕事中だし…まあ、彼女と一緒に学校から帰る、なんてシチュエーションは早々無いからこれもまた椿が居なくて寂しい反面好都合という事だ。
だったら善は急げ、彼女に会ってしまうより先に、侑介からの情報を頼りにササニシキ君が所属しているらしいサッカー部のグラウンドを目指した。


「…正直どれも同じに見える」


私服で堂々と構内に入り、すれ違う生徒からの視線は少し痛いけど職業柄さして気にはならない。そんな事は構わずグラウンドでサッカーボールを追い掛けている奴等を見付けるのは安易だったものの、同じジャージを着て同じ様な歳の男が何人も走っていれば…ぶっちゃけ全部似たような大根か人参にしか見えない。
特別太っているとか、特別背が高いとか特徴的だったら良かったのに、侑介が言っていたのはサッカー部でそれなりにモテるって事くらいだった。
今考えれば僕もどうしてもっと特徴を聞いておかなかったのかと思うけど侑介の説明も在り来たり過ぎる。八つ当たりみたく侑介って使えないよねって眉を寄せた瞬間。


『何してるんですか?』

「、」

『梓君、格好良いから目立ってる』


僕の袖を引っ張りながら顔を覗き込む彼女。
結局ササニシキ君を見付ける前に彼女に見付かってしまった。でも、ササニシキ君なんてもうどうでも良く感じてしまうのは学校に居る彼女が家で見る彼女とは違って見える所為かもしれない。


「名前だって可愛いから目立ってるんじゃないの?」

『残念ながら全くです』

「そう?」

『それより、何で高校に?あ、侑介君に急ぎの用とか』

「だったら携帯で済ませてる」

『うーん。じゃあ久しぶりに学校に来たかった?』

「遠からず、近からずってとこかな」

『そうなの?って!ま、まさか昨日の…?学校に来てアタシを始末するんじゃ…』

「ごめん、何の話し?始末?」

『ち、違うなら良いの!じゃあじゃあ、可愛い妹を迎えに来てくれた!なんてそれは冗談―――』


冗談、おどけた顔で話す彼女が掴んでいた袖から手を離そうとするから、それを止める様に指を絡める。きゅっと手に力を入れて軽くこっちへ引き寄せれば彼女の顔から悪戯が消えて眉が上がった。


「半分正解」

『――――――』

「もう半分、分かる?」

『わ、分かんない…』

「名前のトモダチ、見ておきたくて」

『友達…?』

「うん。僕等兄弟より、一番に名前の部屋に入った男」

『――――――――』


皆気になってるし僕は不満だった、そう言うと彼女の頬っぺたは一瞬で赤に染まった。


『ああああのっ!何で男の子だって、知ってるの?別に隠すつもりは無いけど…!』

「昨日侑介が聞いちゃったらしいよ、名前とソイツの会話」

『ええ!!』

「写真撮って飾るほど仲良いの?」

『な、仲良いって言っても普通に友達です、同じクラスだし…』

「ふーん?ただの友達なんだ?」

『勿論!佐々倉君て誰にでも優しいから喋りやすくて…あの日も引っ越し作業手伝うって、困ってる人見たら助けてくれるっていうか、たまたまアタシだっただけだし、お人好しなの!』

「だったら、もしかして変な事してたかもなんて心配しなくて良いの?」

『ああああ当たり前です!!!アタシと佐々倉君はそんな関係じゃありません!!』

「なら少しは安心した」

『……は、はい』


もしかするとまだ無自覚なだけでほんの少しくらい彼女はササニシキ君に気を許して気持ちが向いているかもしれない。だけどこうして彼女の口から否定の言葉が聞けただけで僕は満足だったし、万が一にもこの先そういう事になりそうだったら僕が彼女の中に居るササニシキ君の存在を消せば良い。それだけの話しだ。


「名前、一緒に帰ろうか」

『うんっ!』


満面の笑顔で頷いた彼女を見れば、自分が思ってた以上に彼女の言葉は重たく心地良いものだって気付いた。ササニシキ君の事は忘れてこのまま一緒に帰れたらそれで幸せだって、そう穏やかになれたのに―――


和馬『名前ちゃん!』

「!!」

『あ、』

和馬『もしかして部活見に来てくれたんだって思ったけど、ただ通り掛かっただけみたいだな、残念』

『和馬君お疲れ様』

和馬『そうやって毎日声掛けて貰えるなら張り切るんだけど。癒されるから』

『またそんな!』

和馬『あはは、本当だって。あ、そっちの綺麗な人、名前ちゃんのお兄さん?』

「、」

『うん、新しくお兄ちゃんになった梓君』

和馬『いつも名前ちゃんにはお世話になってます佐々倉と言います。顔逢わせる度に元気貰っちゃってるし、可愛いし、お兄さんになれるなんて羨ましいです。彼女の事、宜しくお願いしますお兄さん!』

「(ピクンッ)」

和馬『じゃあまた明日』

『うん、頑張ってね』


――――穏やかに、なれたのに。
晴れ晴れした心には途端竜巻と台風が襲い掛かる。


「名前」

『うん?今のが例の佐々倉君だよ、自己紹介してくれたから分かったと思うけど』

「……彼は本当に良い性格してるみたいだね」

『やっぱり!お人好しって感じが一目で分か――――』

「よく聞いて。金輪際アイツを部屋に入れるのは止した方が良いよ?」

『え…あ、梓君、顔が、大変な事に、』

「大変?僕は普段通りだと思うけど?」

『は、はははい…!』

「ササニシキ、アイツは羊の皮を被ったピラニアだ。必要以上に仲良くするもんじゃない」

『え、でも…(ササニシキ?ピラニア?)』

「出来れば会話も避けた方が良い。菌が感染したら大変だ」

『えと、何の話しかなぁ、なんて…』

「……まさか名前お兄ちゃんの言う事が聞けない、なんて言わないよね?」

『めめめ滅相もございません!!』

「よし、じゃあ帰って消毒して魔除けもしておこう。椿と一緒に釘バッドも用意しておくから安心して」

『(ひいいいい!何の安心!?っていうか昨日から何でそんな笑顔で怒ってるの!?)』


彼女に見せるつもりは微塵も無かったのにドロドロと溢れ出した黒い光りは消せる訳も無く僕を包んだ。
冗談で言った丑の刻参りも決行して、早急に家族会議を開こうと思う。兄弟で争うより先に抹殺しなくてはならないものがある事を伝える為に。


(20120821)


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