渡邊一家シリーズ | ナノ


 


 04. oneday/4月14日



『お嬢行くで』

「別に蔵は来なくてもいいんだよ」

『あかん!1分1秒もお嬢から眼離されへんわ!』



何をどう勘違いしてるのか、張り切って職員室に向かう蔵の後ろを一歩引いて歩くアタシ。(どっちかって言うと蔵が呼び出された感じなんだけど)



『なぁお嬢?』

「うん?」

『お嬢は、ホンマはどうしたいん?』

「何の話?主語無いと分かんないんだけど」

『せやから、進路のプリントっちゅうことは高校卒業してからの話やん』

「あー…」



アタシが渡邊一家をどうするかって意味ね。男兄弟も居ない1人っ子なアタシだから後継者っていうものはアタシしか居ないの分かってる。だから今すぐどうこうは出来ないけど時期を見て頑張る気持ちも十分にある。もしお取り潰しにして蔵ノ介や他の皆と一緒に過ごす毎日だって無くなっちゃうのは寂しくて嫌だし(絶対口にはしないけど)、ただアタシにオサムちゃんの代わりが勤まるのか、それが不安であって心配なだけ。
だけど、仮にも十一代目だと思われてるアタシがそんな弱気なこと言っちゃいけないんだ。



『職員室着いたで?』

「あ、うん」



言葉を詰まらせたアタシに気を使ってたのか、蔵ノ介はそれ以上深く突っ込む事無く職員室のドアを開けた。
流石に立場を弁えたのか『ここで待ってるから』とドアの前で“待て”状態の蔵ノ介だけど、赴任してきたばかりの他学年の先生は全身黒尽めの男を怪奇そうに見てた。(一部であれが噂の、とか話してるのは幻聴であって欲しい)



「先生、」

『お、わざわざ悪かったな。進路調査のプリントなんだが…渡邊の家は特殊な事情があるからちゃんと親御さんと相談して決めなさい』



明らかに蔵ノ介が居ないことでリラックスしてる先生に失笑して。
やっぱり先生ですら家を気にしてるんだと思うと何か異様な気分だった。アタシは“普通”じゃないんだって。



「失礼しました…」

『もう終わったん?早かったやんな』

「プリント貰うだけだもん」

『とか言うて、俺と離れとる時間が嫌やったんやろ?』



待ってましたとばかりに忠犬アピールな蔵ノ介を見ると何かもう…ちょっとだけ憂愁になってた自分が馬鹿らしい。



「毎回毎回懲りないねまじで」

『言うとる意味が分からへんで?とにかくお昼にしよかお嬢、今日は天気もええし屋上で食べたらええわ』

「賛成ー」



幾ら悩んだってなるようにしかならないんだ、うだうだする頭を空っぽにして今は目の前にある食べる幸せを堪能する!
お腹も空いたし漸くご飯だご飯、そのまま一直線に屋上へと足を進めたけど、待っていたのは毎度ながら蔵ノ介の余計過ぎるお節介。



『早よ口開けてー?』

「ひ、1人で食べれるってば!」

『ええから“あーん”し?』

「やだやだ、もうご飯くらい自由にさせてよ!」



一対のお箸しか出さず、おかずをアタシの目の前まで持って来る姿にやっぱりやっぱり鬱陶しいって思わずには居られない。

良い歳してバカップルじゃあるまいし“あーん”なんかする訳ないじゃん!本っ当、自分の趣味押し付けるの止めてくれない?付き合わされるこっちの身にもなってみろっての。



『照れ屋さんやなぁお嬢はっ!』

「そ、そういう問題じゃないんだけど…」

『ハハッ、男は好きな女の子甘やかしてなんぼやねんけど…ほな溢さず食べるんやで?』

「ガキ扱いせずに黙ってちゃっちゃかお箸渡して」



堪忍、笑う蔵ノ介を細目で睨むと途端箸を置いて真面目な顔。

何、急に…?
アタシまでお箸止まっちゃうじゃん…



『あんなお嬢、』

「………」

『お嬢は好きな様に生きたらええと思うで』

「え?」

『今の時代色んな職業あるし、勉強したいこととか触れたい世界があると思う。無理に家の事ばっか考えんと好きな道選び?きっと十代目も同じ気持ちや』

「………………」



何よそれ。
蔵ノ介がそんな事言うなんて、そんな風にアタシの事考えてくれたなんて…ちょっと格好良いし、嬉しくなるじゃん…



「きょ、今日だけだからね!」

『え?』

「“あーん”!食べさせたいんでしょ!?」



だから、今日だけ、蔵ノ介の誕生日だけは希望聞いてあげようって思ったの。



『お嬢…!やっばいわ、めっちゃ可愛え…!!ホンマ好きや!』

「どうでもいいから早くご飯!お腹空いてんだからね!」

『締めのデザートは俺やでお嬢?』

「それだけはお断り!」



学校に居ても蔵ノ介と2人きりでご飯、それもいつもの渡邊一家の毎日だけど少し違うのは顔が熱くて仕方ないアタシでした。





(ごちそうさまでした…)(もうええの?まだ残ってるで?)(蔵ノ介もお腹空いてるでしょ)(お嬢…!あかん、感動するんやけど)(はいはい早く食べなさい)(その前にデザートは食べて貰わなあかんて!)(いい要らないってば!)(んー、ほな控えめに一口サイズのデザートや!)(ななな何頬っぺたにちゅうしてんの!セクハラ反対!)(なんならもう一口、口唇に…)(調子乗るのもいい加減にしろ!!)





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