03. oneday/4月14日
「……ねぇ、毎日言ってるけど帰らないの?」
『何で帰らなあかんの?』
「何でって、学校は関係者以外立ち入り禁止なんだってば!」
『お嬢護るのが俺の仕事やねん、十分関係あるわ』
「無い無い!全然無い!」
教室に入ってからもずっと傍に居る蔵ノ介に文句を言ったって怯む様子もある訳なく。
最早毎日こうだと周りの皆も蔵ノ介が居て当たり前な雰囲気で、3年に進級した今なんかは一部の女の子には『いいなぁ』と羨む声まであったり…いやね、顔が良いのは分かる、アタシも認めてる。
だけど恥ずかしいし、こうも渡邊組をあけっぴろげにされると男の子なんて近寄っても来やしない。ああ、グッバイ青春…
『お嬢、男は獣やから近寄って来ん方がええねんで?』
「蔵ノ介だけには言われたくないと思う」
『せやから青春は俺と一緒にしよな?』
「人の話聞いてる?」
あくまでマイペースを崩さない蔵ノ介に溜息吐いたって無駄で、頭活性化の為には授業前に甘いもの、飴玉やとか何とか言ってアタシの口に無理矢理ねじ込んでくる。
『ハハッ、無理矢理ねじ込むとかえっちやなぁ!』
「ちょっと!さっきから人の心読まないで下さい!えっちなのは蔵ノ介の顔と全細胞の間違いだし!」
『まぁ間違うてへんな、俺の身体はいつでもお嬢を求めてんねんから』
「ぎゃあ!太もも撫でるの止めてよ!!いつか本当に警察突き出してやる…!!」
『あ、先生来たで皆に迷惑やねんから静かにしとき?』
む、むかつく…!
散々好き放題言ってセクハラしときながら黙れですって!?何で蔵ノ介はあんなに鬱陶しいの!?
『皆おはよう、白石君もおはよう』
『先生おはようございます』
「……………」
誕生日とかどうでも良くなってきたんですけど。
何で先生も普通に挨拶してる訳?部外者は追い出すのだって先生の仕事でしょう!?何馴染んじゃってんの!
そんなアタシの気持ちも無意味に蔵ノ介が居る中で授業は始まる。
一番後ろの空きスペースでパイプ椅子に座った蔵ノ介は毒草事典片手に穴が開きそうなくらい見てくるもんだからぶっちゃけ授業なんか集中出来ない。
あの事典だって、敵対する組の人に使うのかと勝手な想像膨らますとおぞましいったらありゃしない。いつか蔵ノ介もパクられるんだろうなぁ…そうなったら半年に1回くらいは箱に行って顔合わせてあげてもいいけど。でも蔵ノ介が易々と警察にお世話になるとかあり得ないんじゃ…って、そんなこと考えてる場合じゃなかった。問題蔵ノ介の誕生日をいつ祝うかなんだ。
うーん、やっぱり放課後しか無いよなぁ…家に帰った後、何とかして追い出して超早くケーキ作るかなぁ…
ノートに下手くそなショートケーキの絵をガリガリ書いてると、いつの間にか授業を終えるチャイムが鳴り響く。
『はい、今日の授業は終わります。それで、渡邊!』
「え?はい?」
ケーキの絵をグシャグシャっと黒く塗り潰してノートを綴じると呼ばれるアタシ。
何、授業中適当にしてたのがまずかった?
『昼休み職員室に来なさい』
「ええ!?何で!?」
急な先生のお呼び立てに顔が引きつったのも一瞬、
『先生…お嬢に何の用や?』
『え、しし白石君、落ち着いて下さい…!』
『お嬢に用がある時は俺を通すんが筋ちゃうん?』
本当に顔が引きつったのは蔵ノ介のせいだった。
あいつ先生相手に何やってんの!?
皆に見えない様にチャカ当ててるとかあり得ないんだけど…!!
「く、蔵ノ介!止めなさい!先生困ってるでしょ!!」
『…お嬢、油断大敵やねんで?』
「大分間違ってるから!」
『し、白石君、渡邊さんには進路の事でプリントを渡したいだけですよ…!』
『プリント?ああ、それならそうと早よ言うてくれればええのに先生も人が悪いなぁ!』
『ちゃんと説明しなくてスミマセン…』
「……………」
先生、先生も大分間違ってるよ…
人が悪いのは蔵ノ介の方だって…
『ちゃんと忘れんとプリント貰いに行かなあかんでお嬢!』
「…馬鹿」
こんな非常識な授業風景も渡邊一家にとってはいつものことなんです。(キャーキャー騒ぐ女の子の気持ちが少し分かるなんてどうかしてる!格好良かっただなんて認めないから!)
お嬢は何があろうと俺が護るんや!
(蔵ノ介、チャカ持ち歩くの止めようよ)(これは俺の相棒やからな)(相棒て…)(安心し、命懸けてお嬢護ったるから)(命懸けるほど危険に遭うこと無いと思いますけど)(せやから油断大敵や言うてるやろ)(だったらまず蔵ノ介からの安全を確保して欲しい)(え?ベッド行きたいって?)(馬鹿っ!)
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