05. oneday/4月14日
放課後は絶対絶対車で帰らないと言い張ったアタシに不満そうな顔をしながらもアタシの手と自分の手を絡めて歩く蔵ノ介。
「ねぇ、手繋ぐ必要無いんじゃない?」
『あるある、これもお嬢を護る為やって』
「…ただ若い肌触りたいだけでしょ変態」
『ハッハ!よう分かったな!』
「な、」
そこは嘘でもアタシと手繋ぎたいって言うとこじゃないの?
好きだとか調子良い事ばっかり言いながら結局女好きで変態な蔵ノ介にめちゃくちゃムカついて。
それなら彼女作るなりそういうお店でも行って女の子と戯れてればいい、苛々をぶつける様に払い退けようと思いっきり繋がれた右手を振ってみたものの。
同時に込められた指の力に制止される。
「ちょ、なに?」
『離したくないねん』
「は、」
『お願いや、離さんで?』
「……………」
そんな急にしおらくなって切願されるなんて思わなくて…ペース乱されるみたいに反論出来なくなる自分が情けない。
今日の蔵ノ介、なんか変。時々格好良く見えてドキドキさせられて、本当に困る。
『お嬢、今日は歩きやし何処か買い物でも行かへん?』
「行かない」
『何でや?いつもやったら行くって言うのに』
「今日は用事があるの」
『用事?』
聞いてへんで、言わんばかりに怪訝な視線を突き付けてくる蔵ノ介と眼を合わさない様に外方向いて。
買い物はしたいけど今日は真っ直ぐ帰ってケーキ作るって決めたんだから。何とかバレないようにしなきゃ、蔵ノ介ってば無駄に勘はいいんだもん。
「今日はオサムちゃんにご飯作ってあげる約束してるから帰ったら直ぐキッチンなの」
『へえ、お嬢の手料理かぁ、そら羨ましいなぁ』
「蔵ノ介にはまた今度ね」
『有難う楽しみやなぁ、せやったら俺も手伝うで?』
「ダメダメ!!アタシ1人じゃないと意味無いから!絶対邪魔しないでよ!」
『邪魔とか酷い言い方やなぁ…お嬢がそこまで言うならしゃーないねんけど。せやけどやっぱり十代目は狡いわ』
何とか口実作って誤魔化せたと安堵しながらもブツブツ文句言う蔵ノ介を見るとなんか…アタシの手料理食べたいのかなって、ちょっぴり嬉しくなった。
「蔵ノ介はアタシが作ったご飯食べたいの?」
『当たり前やろ、そらお腹痛くならへんか心配やけど薬常備したら問題あらへんわ!明日十代目が寝込まへんこと祈っとかなあかんな』
「や、やっぱりムカつく…!」
一言二言余計なのよ!
今日は誕生日だから大目に見てやるけど普段なら絶対蔵ノ介に何も作ってやんないと誓った。
□
「やった!出来た!!」
帰るなり部屋着に着替えてキッチンに籠もって3時間。
いざ蔵ノ介が入って来たら困るとキッチンへ入るドアにガムテープを貼りまくって、小麦粉やら砂糖やらと格闘する時間は長かった。
こんなどろどろしたものがふんわりとスポンジになるなんて、初めてケーキを作るアタシにしてみれば未知の世界で。
焼き上がったスポンジにドキドキしながらオーブンを開けた瞬間。
「、臭っ!」
さっきまで良い臭いを放っていたスポンジは焦げ臭くて肌色とか茶色というよりは黒に近い色で膨らんでもなかった。
「うわ、何これ…」
これがケーキ?あの美味しくて柔らかいケーキなの?同じ物とはとてもじゃないけど思えないんだけど…
まさか失敗するだなんて思わなくて、みすぼらしい様子に凄く凄くショックだけど生クリーム塗ればバレないんじゃない?なんて冷蔵庫で冷やして置いた生クリームを取り出す。
「…え、液体なんですけど」
固まってるはずの生クリームまで液体化。ここまでアタシに料理の才能が無いだなんて…
「もう、嫌ーーー!!!」
3時間も掛けて作ったのに、ボウルも泡立て器も綺麗に洗って片付けたのに、流石に作り直す気なんて出てこない。
鬱憤を叫び声として晴らすと『バリバリバリッッ!!』と物凄い音がしてドアが開いた。
『どないしたんやお嬢!?』
「な、何で入ってくんの蔵ノ介!」
『お嬢の声が聞こえて来たから何があったんやろって心配して…って、何やこれ、』
「見ないでよ馬鹿!」
憂愁そうにしてた顔はケーキを見るなり一変して瞠若する。
結局ガムテープ貼ったって無意味なのね、なんて最早汚らしいケーキとかどうでも良くなった。
どうせ『やっぱり』とか思ってるんでしょ…そうですよ、アタシは料理なんか出来ない不器用な女ですよ!
蔵ノ介を驚かせたくって頑張ったのに。悔しくて悔しくて口唇を噛んだ。
『これ、ケーキ?』
「そうだよ、悪い?」
『悪いっちゅうか…もしかして俺の誕生日やから十代目の為にって嘘吐いて作ってくれたん?』
「…………」
それなりに見栄えが良かったなら自信満々に頷くのに出来なくて。
『…………』
「ちょ、ちょっと蔵ノ介!?」
『うん、美味い!』
「、」
『やっぱりお嬢は凄いなぁ』
なのに黒いスポンジをちぎって液体の生クリームを付けて口に入れる蔵ノ介は嬉しそうに優しく笑う。
絶対あんなの美味しくないのに、絶対不味い筈なのに。それからもパクパクケーキを平らげていく。そこまで我慢して食べなくたっていいのに何でよ…
『ごちそうさま』
「何で、食べたの?不味かったでしょ…」
『何言うてんねん、めっちゃ美味しかったで?』
「いた、」
ピン、とアタシのおでこを指で弾く蔵ノ介は『幸せやねん』って、格好良いより可愛い顔で笑った。
『今日俺が誕生日なん忘れてるんちゃうかって思ってたから、お嬢がケーキ作ってくれて嬉しいねん』
「でもあんなの食べたら本当に薬が要るよ、」
『美味しかった言うてるやろ?お嬢が作ったもんなら一流シェフが作ったもんにやって適わへん。それに薬が要る言うたんはな、嫉妬やって分かってくれへんかな?』
「、嫉妬?」
『幾ら十代目でも、お嬢に特別扱いされるんは嫌やっちゅうこと!』
それだけお嬢の事愛してねんで?
その一言に幸せを感じるのはアタシも蔵ノ介が好きだってことなんでしょうか?
本日、渡邊一家の日常は何かが違う気がしました。
誕生日もお嬢が居てくれるだけで幸せです。
(お、遅くなったけど、誕生日おめでとう…)(ん、有難う)(プレゼントちゃんと用意出来なくてごめんね)(ええよ?お嬢貰うし)(は?て、お尻撫で回すの止めてってば!)(んー絶頂!このまま俺の部屋に、)(調子乗るなって言ってるでしょ!)
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