ベタ連載 | ナノ


 


 12.



あの人の声が

空気も身体も心臓も震わす




ベタ12. 一語一句




『それでね、蔵りんてば格好良く名前ちゃんを守ってくれたんだよ!蔵りん素敵過ぎでしょ?』

『そ、そんな事無いですよ』

『何言ってるの!蔵りんは格好良いんだから謙遜しなくていいの!』

「…………」



あれから家に帰ると白石君にベッタリなパパが居て、困った顔をしながらもちゃんとパパの相手をしてくれる白石君、そしてママはキッチンで着々と晩御飯の支度をしてた。

お陰でアタシは白石君と全く話せないし、ママはアタシと眼が合うと親指立てて“良くやった”みたいな顔してるし。
仕舞いには6時から晩御飯で4人テーブルを囲んでるわけだけど、パパのマシンガントークは終わらない。



『蔵りんはテニス部で部長もやってるんだよね、本当に凄いなぁ!』

『いえ、監督の気紛れでなったようなもんですから』

『蔵りんは健気だよね!もうパパは蔵りん大好きだよ!』

『ハハ、光栄です』



本当はこんな歳不相応なパパを白石君に会わすのは恥ずかしくて嫌だったのに。だけどちょっとだけ嬉しいと思っちゃう。
アタシのパパとママが白石君と喋って白石君を好きだって言ってくれる。やっぱり自分の家族が好きな人を気に入ってくれるのは嬉しいし擽ったい。



『蔵りんが良い男なのは十分分かった、だけど名前?』

「何?」

『アンタ浮気相手はどんな「ちょちょちょちょちょっと待った!!」』

『何よ』

「こっちの台詞だから!ママ何言っちゃってんの…!!」



せっかくアタシが珍しくも浸ってたって言うのにあっさり打ち壊してどういうつもり…!
白石君だってキョトンとしちゃってさ、絶対絶対誤解されたじゃん…



『何言ってるもないでしょ、浮気相「あー!もう!黙って!!」』

『名前ちゃん…?』

「あ、あの…し、しし白石君!ちょっと来て!!」

『う、ん?』

『名前ちゃん狡い!蔵りんはパパと遊ぶんだから独り占めなんて許さないから!』

「パパは黙ってご飯食べてて!」



本当に本当にママは何考えてんの?馬っ鹿じゃないの!もしこれで白石君が変な誤解してフラれたりしたら…一生恨んでやるから!



『名前ちゃん、何処まで行くん?』

「え?あ、う、うん、ここでいいや…」

『っちゅうか、これ以上行けへんしな?』

「そ、そうだよね…」



早くあの場から去りたくて夢中で白石君の腕を引っ張ってたアタシは自分の部屋をも突っ切ってベランダまで一直線。

白石君の声と夜風を受けて、やっと少し冷静になれた気がした。
程よく涼しい風に『気持ちええなぁ』って身体を伸ばす白石君は流麗過ぎてファンタジーなお伽噺の中に舞い込んだような、そんな気にさせられる。(だって色っぽくて超セクシーだもん)



『名前ちゃん名前ちゃん、』

「、え?」

『名前ちゃんのお義父さんは可愛い人やな?』

「ええ?!」

『めっちゃ素直でホンマに名前ちゃんが好きなんやなぁて』

「…素直、なのかな」

『うん。お義父さんと喋ってたら名前ちゃんと話してる気分になって俺も嬉しいし楽しい』

「…………」



あんな非常識な父親、似てると思われるのは嫌悪だったのに何で?
白石君がそう言ってくれただけで嫌悪なんか吹っ飛んで、パパに似て良かったとか、思うじゃん…
白石君にさえも両親を気に入って貰えるだなんて幸せ過ぎる。

やっぱりアタシは白石君が好き。



「あ、あの、白石君…?」

『うん?』

「えっと、さっきの気にしないでね…?」

『さっきの?』

「ママが言ってたこと…」

『ああ…』



白石君が好きだからこそ、ちゃんと弁解しておきたくて。それに序でじゃないけど光君の事も今話せばいいかなって次の言葉を整理してたのに、不意に掴まれた手首のせいで頭は真っ白になる。
痛くはないけど強い力から伝うのは白石君の体温。



「白石、くん…?」

『名前ちゃん、弁明の為に俺を此処に連れて来たっちゅうことはそういう事やって思てもええの?』

「あ、の、」

『漸く、菌が回ったんやろか…?』



ドキドキ、ドキドキ、
白石君の一語一句に身体は素直に反応して、白石君の妖艶な表情に眼が離せない。



『名前ちゃん、俺は―――』

《♪〜》

「、」

『……携帯、鳴ってるで』



その続きは何…?
聞きたいのに離された腕が寂しくて。間の悪い携帯を仕方なく開くとメールが1件届いてた。

メール、誰から?
これがサイトか何かの迷惑メールだったなら直ぐに受信拒否してやる、そう思ったのに表示されたメールは…



「っ、」

『名前ちゃん?』



送信者、財前光

(ホンマに部長がええんですか?)

アタシの脳を困惑させる。



「…………」

『メール、やったん?』

「あ、うん…」

『そか』



アタシは白石君が好きだし、揺れる訳じゃないけど…こんな絶妙なタイミングでこんな文章、普通に流せるくらいの免疫なんて持ち合わせて無かった。



『返事、返さんでええの?』

「うん、別に、」

『せやけど…』



真っ暗な夜、部屋の灯りに照らされて月を背負った白石君は、



『財前やろ?』



全て見透かしたような顔で笑ってた。

(白石君、白石君は何を知ってるんですか?)


(20090628)



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